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ポスティングシステムとは?NPBからMLBへ渡る仕組みを完全解説
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2026年8月17日 ・ 1回閲覧 ・ 執筆: 佐野健一(サノケン)
Point
山本由伸投手や佐々木朗希投手のドジャース移籍、あるいは大谷翔平選手のエンゼルス入団――近年、NPBの主力選手がメジャーへ渡るニュースのたびに「ポスティングシステム」という言葉を目にする。
目次
山本由伸投手や佐々木朗希投手のドジャース移籍、あるいは大谷翔平選手のエンゼルス入団――近年、NPBの主力選手がメジャーへ渡るニュースのたびに「ポスティングシステム」という言葉を目にする。ただ、この制度がどういう手続きを経て、誰にどんなお金が支払われる仕組みなのかは、意外と正確に理解されていないことが多い。今回は一次情報にもとづいて、ポスティングシステムの仕組みを一から整理する。
ポスティングシステムとは何か
ポスティングシステムは、NPBに在籍する選手がメジャーリーグ球団と契約するための移籍制度の一つで、選手がまだNPBとの契約期間中であっても、所属球団の同意があれば海外挑戦を認める仕組みだ。選手が自らの意思でFA権を行使する「海外FA」とは異なり、あくまで所属球団が「ポスティング(=入札にかけること)を容認する」という判断を下すことが出発点になる。つまり、選手側の希望と球団側の承認がそろって初めて成立する制度だと理解しておきたい。
制度の始まりは1998年、当時の野茂英雄投手らの海外移籍をめぐる混乱を経て、NPBとMLBの間で導入された。それ以前は、NPB球団と選手契約を結んでいる選手がメジャー球団と接触すること自体に明確なルールがなく、移籍のたびにトラブルが生じていた経緯がある。
現行ルールの仕組み ― 申請から契約まで
現在の制度は、2013年末に導入された新協定をベースに、2018年以降・2022年以降と段階的に見直しが加えられてきた。おおまかな流れは次の通りだ。
- 球団がポスティングを容認:NPB選手が所属球団に海外移籍の意思を伝え、球団がこれを認めた場合、NPB経由でMLB機構に申請の手続きが行われる。申請できる期間は毎年11月1日から12月15日までと定められている。
- MLB機構が全30球団に公示:申請が受理されると、MLB機構が全球団に対し、当該選手と交渉できる状態であることを公示する。
- 交渉期間はおよそ45日間:公示の翌日から45日間、選手は獲得を希望するすべてのMLB球団と自由に契約交渉ができる。この交渉期間のルールは制度発足当初は独占交渉権を持つ球団を決めるオークション方式だったが、2013年末の改定でNPB球団が「上限額」を提示したうえで全球団と交渉できる方式に変わり、その後2022年10月の改定で交渉期間が30日間から45日間に延長された。
- 契約成立後、譲渡金がNPB球団に支払われる:交渉期間内にMLB球団との契約が成立すると、選手の旧所属球団(NPB球団)に対して「譲渡金」と呼ばれる金銭が支払われる。
交渉期間中に契約がまとまらなければ、その年のポスティングは不成立となり、選手はNPBに残ることになる。
譲渡金はどう決まるのか
譲渡金の計算方法は、2018年以降に導入された現行方式では、選手が結んだメジャー契約の年俸総額(契約金や出来高を含む)に応じて、段階的な料率で計算される。具体的には次の通りだ。
契約総額の区分 | その区分にかかる料率 |
|---|---|
2500万ドル以下の部分 | 20% |
2500万ドル超5000万ドル以下の部分 | 17.5% |
5000万ドルを超える部分 | 15% |
たとえば契約総額が1億ドルなら、最初の2500万ドル分(20%=500万ドル)、次の2500万ドル分(17.5%=437.5万ドル)、残り5000万ドル分(15%=750万ドル)を合算した金額が譲渡金になる、という計算だ。2013年末から2017年までの旧方式では、この譲渡金に「上限2000万ドル」という制約があり、大谷翔平投手が2017年にエンゼルスへ移籍した際は、この旧制度からの移行期の特例として、契約規模にかかわらず上限の2000万ドル(当時のレートで約23億円)が日本ハムに支払われることになった。
一方、山本由伸投手が2023年オフにドジャースと12年総額3億2500万ドル(当時のレートで約461億円)で契約した際は、2018年以降の新方式にもとづき、契約が満了した場合の譲渡金は最大で約72億円になる見込みと報じられた。
ポイント
譲渡金はメジャー契約の総額に連動する仕組みのため、選手がメジャーで高額契約を勝ち取るほど、NPBの旧所属球団に入る金額も大きくなる。「選手を手放す代わりに大きな移籍金が入る」というポスティングの構図は、この料率計算の仕組みが土台になっている。
対象になるための条件
ポスティングシステムには、海外FA権のような「一軍登録◯年以上」といった年数の下限は設けられていない。選手が所属球団と選手契約を結んでいる状態であれば、球団が容認しさえすれば理屈のうえでは制度を利用できる。この点が、後述する海外FA権との大きな違いの一つだ。実際には、球団側が主力選手を簡単には手放さないため、若手選手が制度を使うケースは限られてくるが、制度そのものに年数の縛りがあるわけではない。
ただし、契約内容には別のルールが関わってくる。MLBの労使協定では、海外のプロリーグでの在籍年数が6年未満、かつ25歳未満の選手は「国際アマチュア選手」の扱いとなり、各球団に割り当てられた国際ボーナスプールの範囲内でのマイナー契約しか結べない。これがいわゆる「25歳ルール」で、2017年の大谷翔平投手や2024年の佐々木朗希投手は、いずれもこのルールの対象だったため、実力に見合う大型契約ではなく、上限が定められたマイナー契約からのスタートになったと報じられている。
実際の移籍例
ポスティングシステムを使ってメジャーへ渡った選手はこれまで数多く、著名な例としては2000年のイチロー選手(オリックス→マリナーズ)、2006年の松坂大輔投手(西武→レッドソックス)、2011年のダルビッシュ有投手(日本ハム→レンジャーズ)、2013年の田中将大投手(楽天→ヤンキース)、2017年の大谷翔平投手(日本ハム→エンゼルス)、2023年の山本由伸投手(オリックス→ドジャース)、2024年の佐々木朗希投手(ロッテ→ドジャース)などが挙げられる。オリックスに限っても、2000年のイチロー選手、2005年の中村紀洋選手、2022年の吉田正尚選手、2023年の山本由伸投手と、ポスティングで海を渡った選手が続いている。
海外FA権との違い
ポスティングとよく混同されるのが「海外FA権」の行使だ。両者はどちらもNPBからMLBへ移籍する手段だが、制度としての性格はかなり異なる。詳しい行使条件は当サイトの別記事で解説しているが、大まかな違いは次の表の通りだ。
項目 | ポスティング | 海外FA権 |
|---|---|---|
年数条件 | 制度上の下限はなし(球団の承認が前提) | 一軍登録日数145日以上のシーズンが通算9シーズン必要 |
誰の意思で発動するか | 選手の希望+所属球団の承認 | 資格を得た選手が自らの意思で行使できる |
旧所属球団への対価 | 譲渡金(契約総額に連動)が必ず発生 | 金銭補償・人的補償の対象になるのは国内球団への移籍時のみで、海外球団への移籍では発生しない |
契約期間中でも使えるか | 球団が認めれば複数年契約中でも可能 | FA資格を取得している必要がある |
ポスティングは「まだ契約期間が残っている主力選手を、球団の判断で送り出す」制度である一方、海外FA権は「選手自身が積み上げた年数によって得る権利」という位置づけだ。松井秀喜選手(2002年、巨人→ヤンキース)や黒田博樹投手(2007年、広島→ドジャース)、千賀滉大投手(2022年、ソフトバンク→メッツ)は、いずれもポスティングではなく海外FA権を行使してメジャーへ移籍した実例になる。
よくある質問
Q. ポスティングを使えば誰でもメジャーに挑戦できるのか
A. できない。制度上の年数条件はないが、選手個人の意思だけでは成立せず、所属球団がポスティングを容認する必要がある。球団が主力選手を手放したくないと判断すれば、選手が希望してもポスティングは実現しない。
Q. 交渉期間中に契約がまとまらなかったらどうなるのか
A. その年のポスティングは不成立となり、選手はNPBの所属球団に残ることになる。翌年以降にあらためて申請することは制度上可能とされている。
Q. 譲渡金は選手本人に入るお金なのか
A. 違う。譲渡金はNPBの旧所属球団に支払われるお金で、選手本人が受け取るのはメジャー球団と結ぶ契約金・年俸だ。両者は別物として扱われる。
この記事についてのお断り
本稿におけるポスティングシステムの制度概要・交渉期間・譲渡金の計算方式・25歳ルールに関する記述は、Wikipedia「ポスティングシステム」、Full-Count「日ハム、大谷のポスティング申請手続きを発表」、Full-Count「山本由伸"譲渡金72億円"の使い道は?」、千葉ロッテマリーンズ公式「佐々木朗希投手のポスティング手続きについて」を参照した一般的な制度解説であり、当サイト独自の分析や試算ではない。制度の細部は年ごとに見直されており、最新かつ正確な条件についてはNPB公式サイト・MLB公式サイトの発表内容を必ずご確認いただきたい。契約金額・譲渡金額の報道値は、いずれも各媒体が報じた時点での推定・見込み額であり、実際の金額と異なる可能性がある。
本稿で取り上げた選手はいずれも、NPBで積み重ねた実績があってこそメジャーからの評価を得た存在であり、移籍のルートの違いが選手個人の実力や価値を序列づけるものではない点を申し添えておく。

この記事を書いた人
佐野健一(サノケン) ・ プロ野球LAB 編集長・データアナリスト
