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野球のルール入門:二段モーションは本当にボークなのか

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2026年7月28日

投球動作の途中で一度足の動きを止め、間を置いてから改めて腕を振り下ろす「二段モーション」。独特な間合いから打者のタイミングを外しやすいとされ、話題になるたびに「あれはボークではないのか」という議論が起きる投球フォームだ。結論から言うと、現在のNPB(日本野球機構)ではこのフォーム自体を反則投球と定める規定はなく、二段モーションというだけの理由でボークが宣告されることはない。ただし、この結論に至るまでには、一時期NPBが二段モーションを明確に禁止していた時期があるという経緯がある。今回は、なぜ二段モーションがボークと紛らわしいと言われ続けるのか、その背景にある規則の考え方と歴史を整理する。

公認野球規則が定める「投球動作の一貫性」という原則

二段モーションが話題になるたびに引き合いに出されるのが、公認野球規則5.07に定められた「投球動作の一貫性」の原則だ。ここでは、投手が打者への投球に関連する動作を一度開始したならば、その動作を中途で止めたり、変更したりせずに投球を完了しなければならないと定められている(ベースボール・マガジン社「2020年度改正規則の解説<2>投球動作およびボークルール」)。この原則自体は走者の有無にかかわらず適用され、違反すれば走者がいる場面ではボーク、走者がいない場面ではボールが宣告される。二段モーションが誤解を招きやすいのは、まさにこの「動作を中途で止めてはいけない」という原則と、二段モーションの「一度動きを止めてから投げる」という見た目が、字面のうえで衝突して見えるためだ。

1990年代から続く「黙認」の歴史

実はNPBにおける二段モーションの起源は古い。NPB(日本野球機構)の発表によれば、1995年ごろから、上げた足を一度下ろした後に再び上げてから投げるフォームの投手が現れ始めたが、当時の審判団はこの投球方法について特に注意を行わなかった。1996年1月にはこのフォームの是非が一度議論の俎上に載ったものの、「攻撃側チームから特段の抗議がない」「交流していたMLBの審判もこの投げ方を問題視していなかった」といった理由から、明確なルール整備は行われないまま据え置かれた(NPB.jp「投球モーションについて」)。つまり二段モーションは、禁止されていたから広まらなかったのではなく、長い間グレーゾーンのまま黙認され、多くの投手が採用してきたフォームだったということになる。

2005年、一転して「反則投球」と決定される

この状況が大きく変わったのが2005年だ。NPBの規則委員会は、二段モーションおよびこれに類する動作を反則投球にあたると判断し、2005年4月26日の実行委員会で承認、同年7月23日には12球団の監督会議でも確認のうえ、2006年シーズンから厳格に適用することが決まった(前掲NPB.jp「投球モーションについて」)。この決定により、それまで長年容認されてきた二段モーションの投手たちは、シーズンオフの間にフォーム修正を迫られることになった。横浜大洋ホエールズ・横浜ベイスターズ一筋で活躍した三浦大輔投手(前・横浜DeNAベイスターズ監督)もその一人で、2005年に12勝9敗・防御率2.52でリーグトップの成績を残しながら、2006年は禁止の影響でフォームの修正に苦しみ8勝12敗・防御率3.44まで成績が落ち込んだと報じられている。それでも翌2007年には11勝を挙げており、突然のルール変更への対応の難しさを物語る一つの例として語られている(週刊野球太郎「二段モーション禁止で投手生命の危機を迎えた三浦大輔はいかにして克服したのか」)。

2017年、菊池雄星投手のケースが議論を再燃させる

2006年以降、二段モーションは禁止された状態が続いたが、実際の運用では審判ごとに判定の基準にばらつきがあるという指摘も根強くあった。この問題が改めて大きく取り上げられるきっかけになったのが2017年8月、埼玉西武ライオンズの菊池雄星投手(当時)が、複数の試合で二段モーションを理由とする反則投球の判定を繰り返し受けた一件だ。この一連の判定を受けて菊池投手はフォームの修正を余儀なくされ、この出来事が「二段モーションのどこからが反則で、どこまでが許容されるのか」という線引きの曖昧さを改めて浮き彫りにしたとされる(Full-Count「快投の西武菊池、2段モーション"封印"を決断したワケ」)。

2018年、禁止規定そのものが削除され「解禁」に

こうした議論を経て、NPBは2018年1月29日、その年の野球規則改正を正式に発表し、二段モーションを反則投球と定めていた項目そのものを削除した(Full-Count「NPBが野球規則改正を正式発表 "二段モーション"解禁&申告制敬遠を採用」)。この改正により、二段モーションというフォームであること自体を理由にボークを取ることはできなくなり、事実上の解禁となった。冒頭で述べた「二段モーション自体はボークではない」という現在の結論は、この2018年の規則改正によって明文化されたものだ。

なぜ今も「ボークと紛らわしい」と言われ続けるのか

2018年の改正で「二段モーション」という言葉を名指しした禁止規定は削除されたが、これは「投球動作を開始したら中途で止めたり変更したりしてはいけない」という5.07の原則そのものがなくなったわけではない、という点には注意が必要だ。つまり現在も、投手の動きが「一貫した投球動作の一部」として認められる範囲に収まっていればボークにはならないが、その動きが「動作の中断」と判断されるほど不自然であれば、二段モーションという名前がついているかどうかに関係なくボークになりうる。何が「一貫した動作」で何が「中断」にあたるかの最終的な判断は、今も審判の目に委ねられている。二段モーションが解禁された今でも、話題になるたびに「あれはボークでは」という声が出てくる背景には、規則が「フォームの形」そのものではなく「動作が中断・変更されたかどうか」という、審判の解釈が入り込む余地のある基準で運用され続けている、という事情があると考えられる。

この記事についてのお断り

本稿は、当サイトが独自に算出している優勝確率やLABバリューといった試算値とは無関係の、NPBの一般的なルールを解説する記事である。本文中で紹介した公認野球規則5.07の「投球動作の一貫性」の原則はベースボール・マガジン社「2020年度改正規則の解説<2>投球動作およびボークルール」を参照した。1995年ごろからの二段モーションの黙認の経緯、2005年の禁止決定と2006年からの適用はNPB.jp「投球モーションについて」を参照した。三浦大輔投手の事例は週刊野球太郎「二段モーション禁止で投手生命の危機を迎えた三浦大輔はいかにして克服したのか」を、菊池雄星投手の2017年の事例はFull-Count「快投の西武菊池、2段モーション"封印"を決断したワケ」を、2018年の規則改正はFull-Count「NPBが野球規則改正を正式発表」をそれぞれ参照した。文中で取り上げた各選手のフォーム修正・成績の変動は、当時の規則変更という制度上の出来事の一例として紹介したものであり、いずれの選手の技量や人物を評するものではない。

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