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野球のルール入門:隠し球はなぜ「反則」にならないのか

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2026年7月28日

内野手がボールを密かに持ったまま素知らぬ顔で立ち、油断してリードを広げた走者にこっそり近づいてタッチアウトを取る「隠し球」。見ている側からすると、走者や走塁コーチを騙すようなこのプレーが、なぜルール違反にならないのか不思議に思う人も多いのではないだろうか。結論から言うと、隠し球が反則にならないのは、そのとき投手が投手板(プレート)を踏んでおらず、公認野球規則上の「投球動作」に入っていない状態だからだ。ボークは投手が投球動作の中で走者を欺くことを禁じるルールであり、投手板を外れて「ただの野手」になっている場面には、そもそもボークの規定が及ばない。今回はこの仕組みと、プロ野球での有名な実例を紹介する。

隠し球とはどんなプレーか

隠し球は、内野手がボールを持ったまま素振りを見せずに立ち、走者が塁を離れて油断した瞬間にタッチしてアウトを狙うトリックプレーだ。多くの場合、投手が一度捕手やほかの野手からの返球を受けたふりをしてグラブを空にし、実際にはボールをこっそり自分(または別の野手)が保持したまま、投手が投手板から離れた位置に立つ、という段取りで行われる。走者や一塁・三塁の走塁コーチの目を欺く必要があるため、成功させるには周到な準備とチームワークが求められるプレーだ。

なぜ反則にならないのか――カギは「投手板を踏んでいるかどうか」

ボークのルールは、公認野球規則6.02(a)に13項目にわたって定められており、その多くは「投手が投手板に触れた状態で、走者を欺くような紛らわしい動作をすること」を対象にしている。例えば投手板を踏んだままボールを持たずに投手板に触れる、あるいは投手板をまたいで立つ、走者のいない塁へ送球するふりをする、といった行為はいずれもボークにあたる(「ボークについて公認野球規則をガチで読んでみた」note)。逆に言えば、投手が投手板から完全に離れていれば、その投手は規則上「投球動作に入っている投手」ではなく「野手の一人」として扱われる。隠し球は、この「投手板を踏んでいない投手はボークの対象外」という原則を利用したプレーであり、投手はボールを持っていようがいまいが自由に動くことができ、投球するふりをする必要すらない。だからこそ、内野手が隠し持ったボールでタッチを狙うこと自体は、規則上何ら違反にはあたらないのだ。

プロ野球にも実例がある――1999年、イチロー選手が隠し球の餌食に

隠し球は現在ではめったに見られなくなったプレーだが、プロ野球の歴史には実際の成功例が残っている。1999年7月3日、オリックス・ブルーウェーブ対千葉ロッテマリーンズの試合で、ロッテの遊撃手だった井口資仁選手が、二塁走者のイチロー選手(当時オリックス)を隠し球でアウトにした一件がよく知られている。左飛でアウトになった直後の場面で井口選手が外野からの返球を密かに持ったまま二塁付近に立ち、リードを取ろうとしたイチロー選手の背後からタッチしてアウトを宣告させた、という実例だ(BASEBALL KING「かつてはイチローも魔の手に…球界の"絶滅危惧プレー"?『隠し球』を振り返る」デイリースポーツ online「【きょうは何の日】1999年、イチロー魔さか!隠し球でアウト!」)。名選手であっても、リード時のわずかな油断が隠し球の対象になりうることを示す、象徴的なプレーとして今も語り継がれている。

なぜ近年は見る機会が減ったのか

かつては年に何度か話題になった隠し球だが、近年のプロ野球では成立する場面自体がかなり少なくなっている。その理由の一つとして挙げられているのが、走者が出塁時に着用するレガース(すね当て)や肘当てといった防具の存在だ。多くの選手が出塁のたびにこうした防具の着脱のためタイムを取るようになり、その間に試合が一度止まることで、野手側が隠し球を仕掛けるための「間」そのものが生まれにくくなっている、という指摘がある(野球観戦の教科書「野球の隠し球とは?ルールや減少した背景を解説」)。ルール自体が変わったわけではなく、周辺の試合運びの変化によって、隠し球が仕掛けにくい環境になっていったという見方だ。

中継を見るときのポイント

守備側の内野手がボールを持たずにベンチへ戻っていくように見えて、実は投手がグラブを空にしたまま投手板を外れて立っている場面を見かけたら、それは隠し球が仕掛けられている可能性がある瞬間だ。ポイントは、投手が投手板を踏んでいるかどうかにある。投手板を外れていれば投手も野手も自由に動けるという原則を知っておくと、まれに見られるこのトリックプレーの仕組みがより深く理解できるはずだ。

この記事についてのお断り

本稿は、当サイトが独自に算出している優勝確率やLABバリューといった試算値とは無関係の、NPBの一般的なルールを解説する記事である。本文中で紹介した公認野球規則6.02(a)のボーク規定の内容は「ボークについて公認野球規則をガチで読んでみた」noteを参照した。1999年7月3日のオリックス対ロッテ戦における井口資仁選手による隠し球の実例はBASEBALL KING「かつてはイチローも魔の手に…球界の"絶滅危惧プレー"?『隠し球』を振り返る」およびデイリースポーツ online「【きょうは何の日】1999年、イチロー魔さか!隠し球でアウト!」を参照した。隠し球が減少した背景に関する記述は野球観戦の教科書「野球の隠し球とは?ルールや減少した背景を解説」を参照した。本文で取り上げたイチロー選手・井口資仁選手に関する記述は、当時のトリックプレーの実例紹介であり、両選手の実力や人物を評する趣旨のものではない。

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