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野球のルール入門:申告敬遠とは何か、なぜ4球投げなくてよくなったのか

2026年7月21日

勝負どころの場面で、監督がベンチから審判に何かを伝えると、投手が1球も投げないままバッターが一塁に歩いていく――そんな場面を見たことがある人は多いだろう。これが「申告敬遠」だ。結論から言うと、申告敬遠とは「守備側の監督が『この打者を歩かせます』と球審に意思表示するだけで、投手が実際に投球しなくても打者に四球(フォアボール)と同じ一塁への進塁が認められる制度」のことだ。以前は敬遠する場合でも投手は必ずわざと外れたボールを4球投げなければならなかったが、今はその手間が省略できる。今回はこの制度の仕組みと、以前の「4球投げる敬遠」との違い、導入された経緯を解説する。

そもそも「敬遠」とは何か

敬遠とは、投手・守備側が「この打者とはまともに勝負せず、あえて四球で一塁に歩かせる」という作戦のことだ。例えば一死二塁・三塁でその回一番怖い強打者を迎えたとき、無理に勝負して長打を打たれるより、あえて歩かせて一塁を埋め、次の打者との勝負に懸けた方が守備側に有利だと判断される場面がある。公式記録上、敬遠で出した四球は「故意四球」として通常の四球と区別して記録される(「故意四球」Wikipedia)。

申告敬遠が導入される以前は、この故意四球を成立させるためには、投手が実際にわざとボール球を投げ続け、4球ボールカウントを重ねる必要があった。捕手も打者から大きく外れた位置に立ち、そこにきちんと投げてボールをコントロールしなければならない。これが従来型の敬遠のやり方だ。

申告敬遠の仕組み――どうやって成立するのか

申告敬遠は、公認野球規則(日本の野球で採用されている公式ルールブック)の5.05(b)(1)に定められている制度で、守備側の監督がダッグアウトから球審に故意四球の意思を伝えると、審判がそれを受けて故意四球をコールし、投手が1球も投げないまま打者に一塁への進塁が認められる仕組みだ(「故意四球」Wikipedia)。NPBの試合では、審判がコールしたあと場内アナウンスで「申告敬遠」である旨が告げられる。記録上の扱いは従来の敬遠と変わらず、あくまで「故意四球」としてカウントされる(NPB公式サイト「記録員コラム『投げずに敬遠』」)。つまり、申告敬遠は敬遠の「結果」を変えるルールではなく、「そこに至るまでの過程」を省略するルールだと理解するとわかりやすい。

なお、申告敬遠を選んだあとでも、実際に4球投げて敬遠する従来のやり方自体が禁止されたわけではない。あくまで監督には「申告だけで済ませる」か「これまで通り投げる」かの選択肢が増えたということになる。

もともとはソフトボールのルールだった

申告敬遠の考え方自体は、もともとソフトボールの国際ルールで先に採用されていた制度だ。それが野球にも取り入れられる形で、まずMLB(メジャーリーグ)が2017年シーズンから導入し、日本でも2018年からNPB・大学野球・社会人野球で採用された。さらに2020年からは高校野球でも導入されている(「故意四球」Wikipedia)。

なぜ導入されたのか――2つの理由

申告敬遠が導入された背景には、大きく2つの理由がある。1つ目は「試合時間の短縮」だ。敬遠が決まっている場面でも、投手はわざと大きく外れたボールを律義に4球投げなければならず、その間プレーは何も進行しない。近年は野球中継の試合時間の長さがたびたび話題になっており、こうした「結果が分かりきっている間」の時間を削減する狙いがあった。

2つ目は「予期せぬアクシデントの防止」だ。敬遠のボールは捕手が大きく踏み出した位置で受けるため、投手のコントロールがわずかにでも乱れると、ワンバウンドになったり、捕手の届く範囲を外れたりして暴投になりやすい。敬遠中の暴投で走者が想定外に進塁したり、最悪の場合は失点につながったりするケースも実際にあった。申告敬遠であれば、そもそも投球自体が発生しないため、こうしたアクシデントのリスクをそのまま消すことができる。

「敬遠のドラマ」が減ったという声も

一方で、申告敬遠の導入によって、敬遠の場面ならではの緊張感や駆け引きが薄れたという指摘もある。実際に4球投げる敬遠では、捕手が大きく外れた位置に構えた瞬間に投手のコントロールが乱れて痛打されるケースや、逆に打者がその外れた球にあえて手を出しにいくといった、稀ではあるが記憶に残るプレーが生まれることがあった。申告敬遠はこうした「本来なら起こり得たかもしれないハプニング」ごと省略してしまう制度でもある。試合をスムーズに進めるための合理的なルールである一方、こうした駆け引きの余地が減ったことを寂しく感じるファンがいるのも事実だ。

観戦のポイント

申告敬遠が告げられる場面は、たいてい「守備側がこの打者と本気で勝負したくない」という強いメッセージが込められている。一・二塁が空いている場面での申告敬遠なのか、満塁を承知の上でのあえての申告敬遠(押し出しのリスクを負ってでも次の打者との勝負を選ぶ場合)なのかによって、監督の意図の重みもまったく変わってくる。次に申告敬遠のコールを見かけたときは、投手交代や守備陣形の変化と合わせて、そのベンチが何を狙っているのかを考えながら見ると、試合の展開がより深く楽しめるはずだ。