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野球のルール入門:「規定投球回」とは何か ― 防御率0点台の投手がランキングに出ない理由

2026年7月22日

2026年7月21日時点で、西武の平良海馬は14試合に登板して88回を投げ、自責点はわずか9、防御率は0.92という驚異的な数字を残している(当サイトが保有するデータベースによる)。だが同じ時点で西武は51勝37敗3分、消化試合数は91試合。NPBには「規定投球回」というルールがあり、シーズン途中の目安は基本的に「所属チームの消化試合数×1.0」で計算される。つまりこの日の時点では91回が基準となり、平良は3回分だけ足りていない計算になる。防御率がリーグトップ級であっても、この基準に届いていなければ、NPB公式サイトが公開する「規定投球回以上」の防御率ランキングには名前が出てこない可能性が高い。今回はこの「規定投球回」というルールの中身と、なぜこうしたことが起こるのかを整理する。

規定投球回の基本的な仕組み

規定投球回とは、最優秀防御率のタイトルを争う対象になるために、投手が最低限投げていなければならないイニング数の目安のことだ。1軍の規定投球回は「所属球団の試合数×1.0」、2軍(ファーム)は「所属球団の試合数×0.8」で計算され、小数点以下は四捨五入される(2008年までは切り捨てだった)(規定投球回 - Wikipedia)。2026年シーズンのNPBはセ・パ両リーグとも143試合制(リーグ内125試合+交流戦18試合)なので(NPB公式サイト「2026年度パシフィック・リーグ公式戦 試合日程補足説明」)、シーズンをフルに投げ抜いた投手の年間の最終目安は143回ということになる。ただし、これはあくまでシーズン終了時点の話で、シーズン中盤の各種ランキングでは「その時点までにチームが消化した試合数」がそのまま基準として使われる。つまり規定投球回のラインは固定された数字ではなく、シーズンが進むにつれて毎日のように動いていく変動値だ。

なぜこのルールがあるのか

防御率は「自責点(投手の責任とされる失点)×9÷投球回」で計算されるため、分母となる投球回が少ないほど、たまたま失点せずに切り抜けた数試合だけで極端に低い数字が出やすい。例えばリリーフ投手が数試合を無失点で終えれば、その時点の防御率は0.00になり得るが、それを根拠に「今シーズンの防御率No.1」と呼ぶのは実態にそぐわない。規定投球回は、シーズンを通じてある程度の量を投げ抜いた投手同士でなければ、防御率という「率」の比較自体がフェアにならないという考え方から設けられている仕組みだ。実際、NPB公式サイトが公開しているシーズンの投手成績ページ自体が「個人投手成績(規定投球回以上)」という名称になっており、規定投球回に届いていない投手は最初からこの一覧に載らない作りになっている(NPB公式サイト「2025年度 パシフィック・リーグ 個人投手成績(規定投球回以上)」)。

平良海馬のケースで見る「動くライン」

ここで興味深いのは、平良が一度はこの基準を超えていたという点だ。報道によると、2026年7月14日の登板で4回を投げ終えた時点で規定投球回に到達し、防御率0.94でリーグトップに立ったとされる。その後の5回も無失点に抑え、防御率はさらに0.93まで下がったと伝えられている(livedoorニュース「西武 先発・平良海馬が規定投球回に到達 5回無失点の時点で防御率0・93はリーグ1位」)。ところが、当サイトが保有するデータでは7月21日時点で91回に対し88回と、再び3回分の不足が生じている。これは矛盾ではなく、規定投球回というルールの性質そのものを表している。西武は毎試合1試合ずつ消化試合数を積み上げていくのに対し、先発投手である平良は中5日〜中6日に一度しか登板の機会がなく、1試合あたり5〜7回程度をまとめて積み増す形になる。そのため、登板直後は基準を超えていても、次の登板までの間にチームの消化試合数だけが先に増えていき、再び基準を下回る、というシーソーのような動きが起こりやすい。特にシーズン中盤までは、こうした「クリアしたと思ったらまた下回る」という現象が、好調な先発投手ほど起きやすい構造になっている。

2軍や交流戦をまたぐ場合の扱い

規定投球回の考え方は1軍だけでなく2軍(ファーム)にも存在し、係数が0.8に下がる分、必要な投球回のハードルは1軍より低く設定されている。また交流戦のように、セ・リーグとパ・リーグの試合が混在する期間があっても、規定投球回の計算に使われるのはあくまで「その投手が所属する球団」の消化試合数であり、対戦相手のリーグは関係しない。ここは今回のテーマの本筋からは外れるが、規定投球回というルールが1軍・2軍それぞれの成績表で別々に運用されている、という点は覚えておくと中継や記録を見るときの理解の助けになるはずだ。

規定投球回に泣いた投手たち

規定投球回にわずかに届かず、優れた防御率を残しながらもタイトルの対象から外れてしまった投手は、NPBの歴史の中で複数報じられている。ある報道では、ダルビッシュ有や内海哲也といった投手が、防御率1点台という好成績を残しながら規定投球回に届かず、タイトル争いの対象外になったことが複数回あったと伝えられている(Yahoo!ニュース individual「防御率1点台でタイトルを逃した投手たち」(Wayback Machine))。また近年は、先発投手の分業化や登板間隔の管理が進んだこともあり、規定投球回に到達する投手の数自体が減少傾向にあるという指摘も見られる(Number Web「規定投球回数はもう時代遅れ?」)。これらの具体的な数字や順位については記事ごとに書き方の違いもあるため、あくまで「そういう傾向がある」という参考情報として捉えてほしい。

初心者が中継やニュースを見るときのポイント

シーズン中盤に「防御率〇位」というニュースを見かけたとき、それが「規定投球回に到達した投手の中での順位」なのか、それとも「参考記録」扱いの数字なのかを意識できると、記事の理解がぐっと深まる。特に平良のように圧倒的な防御率を残している投手であっても、規定投球回というラインは毎日動いており、次の登板を待たずしてラインの上下どちらに転ぶかは分からない。「まだ規定投球回に届いていないから、公式のランキングにはまだ載っていないかもしれない」という視点を持っておくと、好成績の投手が突然ランキング上位に「登場」したり、逆にしばらく名前が見えなくなったりする理由にも納得がいくはずだ。

この記事についてのお断り

本稿は、当サイトが独自に算出している優勝確率やLABバリューといった試算値とは独立した、NPBの一般的なルール・用語を解説する記事であり、それらの独自分析とは切り離してお読みいただきたい。文中で挙げた平良海馬投手の投球回・防御率・登板数などの数値は、当サイトが保有するデータベース(2026年7月21日時点)および各種報道をもとにしたものであり、シーズンの進行に伴って日々更新される性質の数字である点をあらかじめお断りしておく。また、過去のタイトル逸失事例や規定投球回到達者数の傾向に関する記述は、報道内容を参考情報として紹介したものであり、当サイトが全件を独自に検証したものではない。平良海馬投手をはじめ、本稿で名前を挙げた投手たちの実績は、いずれも高く評価されるべきものであり、規定投球回というルールの説明のために取り上げていることをご理解いただきたい。