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野球のルール入門:リクエスト(ビデオ判定)はなぜ『際どい判定』を覆さないのか

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2026年7月27日

リクエスト(ビデオ判定)で映像を見返しても、際どいプレーの判定がそのまま維持されて、視聴者の間で「映像を見る限り違うのでは」という声が上がる場面は珍しくない。結論から言うと、リクエスト制度はそもそも「際どい判定を必ず正しく直すための仕組み」ではなく、「確証のある映像がある場合に限って、現場の判定を覆す仕組み」として運用されている。現場の審判が下した判定は基本的に尊重される、という前提があるため、映像を見ても白黒がはっきりしない微妙なプレーほど「現状維持」という結論になりやすい。今回はこの制度の基本的な考え方と、実際に判定が覆らなかったことが問題になった実例を紹介する。

実際にあった事例:藤川球児監督が退場処分になった一戦

2026年6月10日、みずほPayPayドーム福岡で行われた日本生命セ・パ交流戦、福岡ソフトバンク対阪神の第2回戦。スコア2-3の七回、阪神の一塁走者が仕掛けた盗塁にアウトの判定が下された。この判定に納得がいかない阪神・藤川球児監督はリクエストを行使したが、映像を見返した末に判定は変わらず、結果を受け入れられなかった藤川監督が判定への抗議を続けたため、退場を宣告される事態となった。NPBは藤川監督に対して厳重注意と制裁金10万円を科している(NPB.jp「藤川球児監督(阪神)に対する制裁のお知らせ」日本経済新聞「プロ野球:阪神・藤川球児監督が退場 リクエストの判定に抗議で」)。この退場は、選手時代を含めてプロ野球生活で藤川監督にとって初めての退場処分だったと報じられている。判定そのものの是非はさておき、「リクエストしても、映像だけでは覆らない場面がある」ことを象徴する出来事だったと言える。

過去にも起きていた「映像はあるのに覆らない」ケース

同様の構図は、これが初めてではない。2025年5月27日の中日対ヤクルト戦(神宮球場)、8回1死一塁の場面で、中日・川越誠司選手が放った右翼ポール際への打球がファウルと判定された。中日・井上一樹監督(当時)は納得できずリクエストを要求したものの、確認に使えた映像は各局の中継カメラが捉えたものに限られ、本塁打かファウルかを一義的に決め切れる材料がそろわなかったため、ファウルの判定はそのまま維持された。中日はこの結果を不服として、NPBに抗議文を提出している(JBpress「プロ野球、リプレー検証で『ホークアイ』を物証にできない謎…メジャーにも韓国にもテクノロジー活用で完全に出遅れ」(田中充・尚美学園大学准教授))。この記事の中でも「判定を覆すには明確な物証が必要になる」という運用の実態が指摘されている。裏を返せば、映像を見て「なんとなく違いそうだ」という程度の心証では、判定はひっくり返らないということだ。

「確証のある映像」という基準はどこから来ているのか

NPBのリクエスト制度の細かい運用ルールは、一般に公開されていない「アグリーメント」に定められており、球団や報道機関を通じて断片的に伝えられているのが実情だ(note「NPB『リクエスト制度(リプレイ検証)』のルール」)。それでも、報じられているアグリーメントの内容として「リプレイ映像の検証時間は5分以内とし、確証のある映像がない場合は審判団の判断とする」という運用基準が広く伝えられている(同上)。つまり、リクエストで映像検証に入っても、5分以内に「確証のある映像」が得られなければ、グラウンド上の審判が最初に下した判定がそのまま採用される。これは「疑わしきは現場の判定を優先する」という、いわば無罪推定に近い考え方に基づいている。現場の審判は限られた時間・視野の中でその場の判断を下しており、リクエスト制度はその判断を安易に覆すのではなく、映像という客観的な材料で明確に誤りだと確認できたときにだけ手を加える、補完的な仕組みとして設計されている。

2026年のリプレーセンター導入でも基準そのものは変わっていない

2026年シーズンから、NPBはリプレー検証をNPB事務局内に新設された「リプレーセンター」に一本化した。現役の審判員2名と、外部委託のオペレーター1名が常駐し、当該試合に関わっていない第三者の審判員が全国の試合の映像確認を集約して担う体制に変わっている(週刊ベースボールONLINE「NPBリプレーセンター運用開始 統一ベースも公式戦で使用スタート」東京新聞デジタル「プロ野球のリプレー検証はどう変わる?」)。この改革は、検証を担当する審判員の第三者性を高め、全球場で映像環境を統一することを狙ったもので、判定の公平性やスピードの底上げにはつながっている。しかし、これは検証の「体制」を整えるための改革であって、「際どければ映像の心証だけで判定を覆してよい」という方向に基準を緩めたものではない。依然として検証に使われる映像の主な出所は各局の中継映像であり、専用の解析カメラを多数備えるMLBやKBOと比べると、確証を得られる場面自体が限られるという指摘もある(前掲・JBpress)。体制が整っても「確証のある映像」という高いハードルそのものは変わっていない、という点は押さえておきたい。

初心者が中継を見るときのポイント

リクエストで映像が流れているとき、「際どいから覆るはずだ」と身構えるのではなく、「これは覆すに足るだけの決定的な証拠が映っているか」という視点で見てみると、判定の見え方が変わってくる。監督がリクエストを行使したのに判定が覆らなかった場合、それは審判団が現場の判断を軽視しているからではなく、映像だけでは確証が持てないという、制度上の高いハードルをクリアできなかった結果であることが多い。藤川監督のケースのように、結果に納得がいかず抗議に至ることもあるが、これはリクエスト制度が本来的に「疑わしきは現場の判定を優先する」仕組みであることの裏返しでもある。

この記事についてのお断り

本稿は、当サイトが独自に算出している優勝確率やLABバリューといった試算値とは無関係の、NPBの一般的な制度を解説する記事である。文中で紹介した2026年6月10日の阪神・藤川球児監督の退場処分については、NPB公式サイトの制裁発表および日本経済新聞の報道に基づいている。2025年5月27日の中日対ヤクルト戦の事例については、JBpressに掲載された記事(尚美学園大学・田中充准教授執筆)の記述を参照した。NPBのリクエスト制度・リプレー検証の詳細な運用規定(アグリーメント)そのものは一般に公開されていないため、本文で紹介した「確証のある映像がない場合は審判団の判断とする」といった運用基準は、報道や解説記事を通じて伝えられている内容の整理であり、NPBが同一の文言を公式に公開しているものではない点をあらかじめお断りしておく。判定を巡る対立については、審判・監督・選手いずれの立場も一方的に断定・批判する意図はなく、それぞれの職務上の判断を尊重する立場で記述している。

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