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下柳剛『グラブ投げ事件』― 2007年10月1日、エースが一戦で二度もグラブを叩きつけた理由

2026年7月30日 ・ 執筆: 佐野健一(サノケン)

2007年10月1日、横浜スタジアムで行われた横浜ベイスターズ対阪神タイガース戦。5回、味方内野陣の守備の乱れが重なる中で、阪神の先発・下柳剛がマウンド上でグラブを地面に叩きつける場面が二度も起きた。のちに「下柳=グラブ投げ」というイメージを決定づけたこの一戦を、当サイト「球史に残る伝説の名場面・珍プレー」シリーズの一本として取り上げる。

先に断っておくと、この記事は当サイトが独自に算出している優勝確率・LABバリューといった分析とは無関係の、球史を振り返る一般的なフィーチャー記事である。事実関係は複数の報道をもとに確認できた範囲に限定して記載している。

結論 ― CS進出と自身の10勝目がかかった一戦での出来事

まず、この試合の位置づけを押さえておきたい。2007年はセ・リーグにクライマックスシリーズ(CS、レギュラーシーズン上位3球団によるプレーオフ)が初めて導入された年で、この日の横浜戦は阪神にとってCS進出を決められる可能性がある一戦だった。下柳自身にとっても、この試合はチーム内トップとなる勝ち星を積み上げ、自身3年連続となる2桁勝利がかかったマウンドでもあった(東スポnote「下柳剛連載」デイリースポーツ online)。それだけに、試合の入り方も重要な一戦だったことがうかがえる。

何が起きたのか ― 5回、二つの守備の乱れ

試合は序盤に阪神が大量リードを奪う展開だったと伝えられている。迎えた5回、1死一塁の場面で二塁手・関本賢太郎がゴロを処理して二塁へ送球したが、遊撃の守備に入っていた田中秀太の足が送球を受け取る前に早く二塁ベースから離れてしまい、記録は二塁セーフの判定に。さらに続く打者の打球を秀太が弾いて後逸し、1死満塁とピンチが広がった。ここで下柳は一度目のグラブ投げを見せた。だが、これで場面が収まったわけではなかった。次打者が放った併殺コース(ゲッツーが取れそうな打球)の遊撃ゴロを、今度は秀太がしっかり捕球して二塁へ転送、そこから一塁への送球でアウトを狙ったが、判定は際どいタイミングでセーフ。下柳は再びグラブを地面に叩きつけている(デイリースポーツ online)。同じイニングで二度の「グラブ投げ」が起きたのは、後にも先にもこの一戦だけとして語り継がれている。

投手心理から見る、あの怒りの正体

野球通の視点で補足しておきたいのは、下柳が求めていたのは「一つのアウト」ではなく「併殺(ダブルプレー)によるイニングの早期終了」だったという点だ。1死一塁からのゴロは、本来なら二塁・一塁と送球をつないで二死を取り、走者を一気に減らせる絶好の場面だった。それが逆に走者を増やす結果につながれば、先発投手にとっては球数もプレッシャーも一気に膨らむ。CSと自身の2桁勝利という二重の重圧がかかっていたマウンドで、狙った併殺が不発に終わる場面が続けて起きたことが、あの瞬間的な感情の発露につながったと見るのが自然だろう。

下柳自身はのちの連載コラムで、この行動について「頭にきていたことは否定しないけど、心底ブチ切れていたわけじゃなかった。半分は演技だったんだよね」という趣旨のコメントを残している(東スポnote「秀太ブチギレ事件、半分は演技だったんだよね」)。一度目のグラブ投げの際にはマウンド上でバランスを崩して転びかけたことがきっかけだったともされ、単なる怒りの爆発というより、その場を締め直すための咄嗟の振る舞いという側面もあったようだ。

「事件」がその後、笑い話になっていった理由

この一戦は当時のスポーツニュースや後年の特番(フジテレビ系「中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞2022」など)で繰り返し取り上げられ、「下柳=グラブ投げ」というイメージを決定づけた(デイリースポーツ online)。当事者である下柳・関本の2人はのちに出演した特番でもこの一件を笑いを交えながら振り返っており、下柳自身も引退後のイベントなどで味方のエラーに合わせてグラブを叩きつける“お約束”のパフォーマンスを見せることがある。2026年7月27日に東京ドームで行われたサントリードリームマッチでも、松田宣浩のトンネル(打球を後逸するプレー)に合わせて同様のパフォーマンスを披露し、会場を沸かせている(デイリースポーツ(Yahoo!ニュース))。一つの緊迫した場面が、時を経て選手同士の信頼関係を示すエピソードへと形を変えていったのは、興味深いことだと言える。

まとめ ― 勝負どころの重圧が生んだ、一瞬の感情

下柳剛のグラブ投げ事件は、単なる「キレやすいベテラン投手のエピソード」として消費してしまうにはもったいない場面だ。CS進出と自身の節目の勝利がかかった一戦で、狙った併殺が続けて不発に終わる。その重圧の大きさこそが、あの瞬間的な行動の背景にある。プロ野球選手が背負っているプレッシャーの重さを物語る一場面として、記憶しておきたい。

この記事についてのお断り

本稿は、当サイトが独自に算出している優勝確率・タイトル獲得確率・ピタゴラス勝率・Elo・LABバリューといった分析とは無関係の、球史を振り返る一般的なフィーチャー記事である。試合の日付・状況・経緯については東スポnote「下柳剛連載」、デイリースポーツ online(2022年12月11日配信、下柳剛氏・関本賢太郎氏本人によるインタビュー記事)を主な出典とした。試合の最終スコアについては、報道間で完全に一致する数値を確認できなかったため、本稿では具体的な点差の記載を控えている。この記事は下柳剛氏・田中秀太氏・関本賢太郎氏という、いずれも現役時代に高い実績を残した選手たちを扱うものであり、感情が表に出た一場面であっても、その裏にあったプレッシャーや当時の心情に理解を示す形で執筆した。事実関係について誤りがあればご指摘いただきたい。

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佐野健一

この記事を書いた人

佐野健一(サノケン) ・ プロ野球LAB 編集長・データアナリスト

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