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クオリティスタート(QS)入門:防御率だけでは見えない「試合を作る力」

2026年7月23日

2026年7月22日時点の当サイトのデータで、先発投手とみなせる投手(セーブ・ホールドが0で、登板数8試合以上、かつ1試合あたりの平均投球回が3回以上)67人を抽出すると、1試合あたりの平均投球回はリーグ平均で5.89回、平均防御率は3.24だった。この中で髙橋遥人選手(阪神)は平均7.42回・防御率1.70という数字で頭一つ抜けており、逆に田嶋大樹選手(オリックス)は平均4.18回・防御率7.04と、同じ「先発投手」という括りの中でもこれだけの開きがある。こうした「試合をどれだけ作れているか」という視点を数字にしたのが、今回取り上げる「クオリティスタート(QS)」という指標だ。この記事ではQSの定義と、防御率だけでは見えないものを補う意義、そしてQS自体が抱える弱点を整理したうえで、当サイトが保有するデータから読み取れる範囲で、QS的な安定感が高い投手・低い投手の傾向を紹介する。

クオリティスタート(QS)とは何か

クオリティ・スタート(Quality Start、QS)とは、先発投手が「6イニング以上を投げ、かつ自責点を3以内に抑えた」場合に記録される、投手の成績評価項目の1つだ。1985年にアメリカのスポーツライター、ジョン・ロウ氏がフィラデルフィア・インクワイアラー紙上で提唱したのが始まりとされ、その後メジャーリーグで広く使われるようになり、2007年以降はNPB(日本プロ野球)でもセイバーメトリクス系の指標の1つとして紹介されるようになった(Wikipedia「クオリティ・スタート」Full-Count「QS(クオリティスタート)【意外と知らない野球用語】」)。ある投手のシーズン全登板のうち、QSを記録した試合の割合を「QS率」と呼び、先発投手の安定感を測る目安として使われることが多い。

なぜ防御率だけでは見えないものを補うのか

勝敗という記録は、味方打線がその日どれだけ得点したか、リリーフ陣がリードを守り切れたかという、投手本人の力だけでは説明しきれない要素に大きく左右される。防御率もシーズン全体でならせば投手の実力を映す数字だが、「今日の1試合」を評価する物差しとしては使いにくい。QSは、勝敗にも防御率にも頼らず「その試合、先発投手として試合を壊さずに試合を作れたかどうか」だけを、6回・3失点という単純な基準でイエス・ノーで判定する。先発・中継ぎ・抑えの分業が当たり前になった現代野球で、「先発投手の最低限の仕事」を測るために生まれた指標であり、1試合単位の「試合を作れたか」という視点を補ってくれるのがQSの意義だと考えてほしい。

QS自体が抱える限界――6回3失点は「防御率4.50」でも成立する

ただし、QSは万能の指標ではない。QSの成立条件である「6回3失点以内」を防御率のスケールに換算すると、3自責点×9÷6回=4.50になる。つまり、6回を投げてちょうど3失点した試合は、その1試合だけを切り取れば防御率4.50の内容でもQSとしてカウントされてしまう。防御率4.50は、規定投球回に到達する投手のランキングで見れば決して上位とは言えない数字であり、「QSを量産している投手=安定して好投している投手」と単純には言い切れない場合があるという点は、この指標を使う際の注意点としてよく指摘される(Yahoo!知恵袋「6回3失点なら防御率4.5」など、複数の解説記事で同様の指摘が見られる)。この弱点を補うために、7イニング以上・自責点2以内という、より高いハードルの「ハイ・クオリティ・スタート(HQS)」という指標も提唱されている。一方で、QSを達成した試合はチームの勝率がおおむね6割台になるという集計を紹介する分析も存在し(note「QS(クオリティ・スタート)を調査。6投球回3自責点は勝てる投手なのか?」)、「最低限のライン」でありながら、それでもチームの勝ちやすさとある程度の相関があるというのがQSの実像に近いようだ。数字の性質としては「これを満たせば十分」ではなく「これを満たせなければ試合を壊した可能性が高い」という、下限を測る指標として捉えるのが実態に近いと考えられる。

当サイトのデータでQS的な傾向を見る――ここでの前提

ここからは当サイトが保有する投手成績データを使う。まず断っておきたいのは、当サイトのデータベースには「QSを記録した試合数」そのものを直接記録したフィールドは存在しないという点だ。保有しているのは登板数・投球回・自責点・防御率といった、シーズン累積の成績であり、1試合ごとの詳細なログではない。そのため、この記事で紹介する数字は「実際に何試合QSを達成したか」という正確なカウントではなく、「1試合あたりの平均投球回」と「防御率」という、DBに実在するデータから読み取れる範囲での傾向にとどまる点をあらかじめお断りしておく。平均投球回が6回に近く、かつ防御率が低い投手ほど、QSを積み重ねやすい傾向にあると考えられる、という程度の目安として読んでほしい。

また、先発投手を抽出する条件として、当サイト独自に「セーブ・ホールドの記録が0で、登板数が8試合以上、かつ1試合あたりの平均投球回が3回以上」という条件を設定した(2026年7月22日時点、1軍データ)。この条件に該当したのは67投手で、リーグ平均の1試合あたり投球回は5.89回、平均防御率は3.24だった。ちなみにこの67人のうち、平均投球回が6回以上に達しているのは32人(約半数)で、そのうち防御率も3.00以下に収まっている投手は23人だった。逆に平均投球回が5回に満たない投手は8人、防御率が4.50以上(前述のQSぎりぎりの数字に相当するライン)の投手は10人という内訳だ。この抽出方法はあくまで当サイト独自の便宜的な区分であり、シーズン途中の登板数が少ない投手や、先発と中継ぎを兼ねるような起用をされた投手が含まれている可能性もある点はご留意いただきたい。

平均投球回・防御率ともに高水準――QSを積み重ねやすいタイプ

まず「平均投球回が長く、かつ防御率も低い」投手から見ていく。髙橋遥人選手(阪神)は15試合に登板して平均7.42回・防御率1.70、隅田知一郎選手(西武)は14試合で平均7.36回・防御率2.27。この2人は平均投球回が7回を超えており、前述のHQS(7回2失点以内)に近いペースで投げ続けている計算になる。続いて大津亮介選手(ソフトバンク)が平均6.81回・防御率2.08、村上頌樹選手(阪神)が平均6.78回・防御率2.03、大野雄大選手(中日)が平均6.71回・防御率1.82と、いずれも「6回を大きく超える投球回」と「3を大きく下回る失点ペース」を両立させている。この水準の投手は、単発の好投ではなく登板のたびに試合を作れている可能性が高いと考えられる。

平均投球回は長いのに、防御率がQSの境界線に近い投手たち

一方で興味深いのが、平均投球回は6回を超えているのに、防御率がQSの成立ライン(4.50)に近づいている投手だ。髙橋宏斗選手(中日)は10試合で平均6.17回を投げているが、防御率は4.38。荘司康誠選手(楽天)も15試合で平均6.07回、防御率4.25。どちらも「6回を超えて投げ切る力」自体は示せているが、防御率だけを見ると前述の「6回3失点=防御率4.50」というQSの弱点がそのまま当てはまりかねない水準にある。つまりこの2人は、実際の登板内容次第では「QSの定義上は達成扱いになるが、内容としては上位とは言いにくい試合」を含んでいる可能性がある、というQSの限界を体現するようなポジションにいる投手だと言える。これは決して両選手の投球を否定する数字ではなく、「回を長く投げられる力」と「失点を抑える精度」は必ずしも同じ方向を向くとは限らない、という数字の見方を教えてくれるケースとして捉えたい。

防御率は良いのに、平均投球回がやや短い投手たち

逆のパターンとして、防御率は優秀なのに平均投球回がQSの目安である6回にやや届いていない投手もいる。玉村昇悟選手(広島)は9試合で防御率2.40と好成績を残しているが、平均投球回は5.41。前田健太選手(楽天)も防御率2.91に対し平均5.15回、ジェリー選手(オリックス)も防御率2.63に対し平均5.14回にとどまる。いずれも失点そのものは少なく抑えられているものの、QSの成立条件である「6回以上」というラインの手前で降板することが多いタイプと言えそうだ。内容は決して悪くないのに、QSという「6回」という一律の基準では拾いきれない好投がある、という側面を示す例だと考えられる。

平均投球回・防御率ともに厳しい数字が出ている投手たち

最後に、平均投球回・防御率のいずれも上位とは言いにくい水準にある投手にも触れておく。田嶋大樹選手(オリックス)は11試合で平均4.18回・防御率7.04、スチュワート・ジュニア選手(ソフトバンク)は12試合で平均4.69回・防御率5.27、ターノック選手(広島)は9試合で平均4.74回・防御率4.01という数字が並ぶ。いずれも今季ここまでは先発として試合を作りきれていない登板が多かったことをうかがわせる数字だが、シーズンはまだ終わっていない。プロの投手として1軍のマウンドに立ち続けていること自体が簡単なことではなく、今後の登板で数字が上向く可能性は十分にある。データはあくまで現時点の傾向を示すものであり、選手個人の評価そのものを決めつけるものではないという前提で見てほしい。

まとめ――QSは「最低限」を測る物差し

クオリティスタートは、先発投手が試合を壊さずに試合を作れたかどうかを、6回・3失点というシンプルな基準で判定する指標だ。勝敗や防御率だけでは見えない「試合を作る力」を映してくれる一方で、「6回3失点=防御率4.50でも成立する」という性質上、QSの数字だけを見て「素晴らしい内容だった」と判断するのは早計になりかねない。当サイトが保有するデータからも、平均投球回が長くても防御率がQSのボーダーに近い投手や、逆に防御率は良くても平均投球回がやや短い投手など、さまざまなタイプがいることが見えてくる。QSは万能の指標ではなく、あくまで先発投手の「最低限のライン」を測る物差しとして、防御率や他の指標と組み合わせて見ることで初めて実像に近づける数字だと考えている。

この記事についてのお断り

本稿で紹介したクオリティスタート(QS)の定義・由来・一般的な評価に関する記述は、Wikipedia、Full-Count、noteなど複数の情報源を参照したものであり、文中に出典を明記している。一方、「1試合あたりの平均投球回」「防御率」を用いた投手ごとの傾向分析は、当サイトが保有するデータベース(2026年7月22日時点、1軍データ)をもとにした当サイト独自の分析・試算であり、NPB公式が発表する数値やQSの公式な集計ではない。当サイトのデータベースには試合ごとのQS成立・不成立を記録した項目が存在しないため、本稿の「QS的な傾向」という表現は、あくまでシーズン累積の投球回・防御率から読み取れる近似的な目安であり、実際のQS達成試合数を正確に数えたものではない点をあらためてお断りしておく。また、先発投手の抽出条件(セーブ・ホールド0、登板数8試合以上、1試合あたり平均投球回3回以上)は当サイト独自の便宜的な基準であり、起用法によっては実際の役割と一致しない場合がある。文中で数字を挙げた投手はいずれも1軍の第一線で戦っている選手であり、防御率や平均投球回が厳しい水準にある投手についても、その健闘と今後の巻き返しに敬意を持って紹介していることをご理解いただきたい。