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セイバーメトリクス入門:OPS・WHIPって結局何なのか

2026年7月21日

「打率.292なのにOPSは.677」「防御率1.57なのにFIPは3.67」――こういう「あれ、数字がズレてる」という現象が起きるのがプロ野球の面白いところだ。前回の記事では打率・本塁打・打点・防御率・勝敗という基本成績を紹介したが、実はこれらだけでは選手の実力を見誤ることがある。それを補うために生まれたのがOPSやWHIPをはじめとする「セイバーメトリクス」と呼ばれる指標群だ。この記事では、数式をできるだけ使わずに、「なぜこの指標が必要になったのか」という考え方の部分を中心に解説する。

そもそもセイバーメトリクスとは何か

セイバーメトリクス(Sabermetrics)とは、野球の成績を統計的に分析し、「勝利にどれだけ貢献したか」をより正確に測ろうとする分析手法の総称だ。1970年代にアメリカで生まれ、大リーグで広く使われるようになった考え方で、近年はNPB(日本プロ野球)の分析でもよく登場するようになった。難しく聞こえるかもしれないが、根っこにあるのは単純な問いだ。「打率が高い選手は、本当にチームの勝利に一番貢献しているのか?」「防御率が低い投手は、本当に一番良い投球をしているのか?」――この問いに答えるために、打率や防御率だけでは見えていなかった部分を数字で補おうとしているのがセイバーメトリクスだと考えてほしい。

OPS――打率が見落とす「長打力」と「選球眼」

前回の記事で触れた通り、打率は「安打が出たかどうか」だけを数える数字で、単打も本塁打も同じ「1安打」として扱われる。また、四球で塁に出た場合はそもそも打率の計算に含まれない。ここに打率の弱点がある。四球を選ぶのがうまい打者や、長打が多い打者の価値を、打率という数字は正しく反映しきれないのだ。

この弱点を補うために使われるのがOPS(On-base Plus Slugging)で、「出塁率+長打率」という単純な足し算で計算される。出塁率は「打席のうち安打・四球・死球で塁に出られた割合」、長打率は「打数あたり何塁分の進塁につながる打球を打てたか」を表す数字だ。この2つを足すことで、「塁に出る力」と「長打を打つ力」の両方を1つの数字にまとめている。

実際のデータで見てみよう。2026年7月19日時点で、中野拓夢選手(阪神)は打率.292とリーグ上位の数字を残しているが、OPSは.677にとどまる。一方、栗原陵矢選手(ソフトバンク)は打率.261と中野選手より低いが、OPSは.913とリーグ屈指の数字だ(本塁打27本でリーグトップでもある)。打率だけを見ると中野選手の方が「打てている」ように映るが、出塁率と長打率を合わせたOPSで見ると評価が逆転する。これは「打率という1つの物差しだけでは、選手のタイプによって評価がズレる」ということを分かりやすく示す例だ。ちなみにリーグ全体で見ると、佐藤輝明選手(阪神)がOPS1.056でトップ、近藤健介選手(ソフトバンク)が.988で続いている。

OPSの目安としては、.800を超えればチームの主軸級、.900を超えればリーグを代表する打者という体感になる。打率3割と同じように、「OPS.800」という数字を見たときにその凄さがイメージできるようになると、選手の見方がぐっと広がる。

WHIP――防御率が見落とす「走者を出さない力」

投手側で同じ役割を果たすのがWHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)だ。計算式は「(与えた四球+被安打)÷ 投球回」で、1イニングあたり平均何人の走者を出しているかを表す。防御率が「最終的に何点取られたか」という結果を見る数字なのに対し、WHIPは「そもそもピンチをどれだけ作らずに済んでいるか」という過程に近い部分を見る数字だと考えると分かりやすい。

2026年7月19日時点では、栗林良吏選手(広島)がWHIP0.65、髙橋遥人選手(阪神)がWHIP0.78と、いずれも規定投球回に到達している投手の中でトップクラスの数字を残している。目安としては、WHIP1.00を切れば「1イニングに1人も走者を出さないペース」という意味になり、これは球界でも屈指の安定感を示す数字だ。逆にWHIPが1.40を超えてくると、走者を頻繁に出しながら踏ん張っているタイプと言える。

数字の「ズレ」が教えてくれること――運と実力を分けて見る

セイバーメトリクスが得意とするのは、「実際の結果」と「その選手が本来持っている実力」を切り分けて考えることだ。防御率は最終的な失点という「結果」を見る数字だが、その失点には、野手の好守備・拙守や、走者を出した後の巡り合わせといった、投手本人の力だけでは説明しきれない要素も混じっている。

そこで使われるのがFIP(Fielding Independent Pitching)という指標で、投手が比較的自分の力でコントロールしやすいとされる本塁打・四死球・奪三振の3つだけを使い、防御率と同じ点数のスケールに変換して算出する(当サイトのFIPは、その時点のリーグ全体の防御率に合わせて定数を動的に較正した、当サイト独自の試算値だ)。防御率とFIPの間に大きな差がある投手は、「守備や運の巡り合わせが結果に大きく影響している」可能性があるというサインになる。

2026年7月19日時点の当サイトの試算では、髙橋宏斗選手(中日)は防御率4.86に対しFIPが2.60と、2点以上の開きがある。これは「投球内容そのものは崩れていないが、守備や巡り合わせの影響で失点がかさんでいる」可能性を示す数字で、防御率という結果だけを見ていると実力を過小評価してしまうかもしれないケースだ。逆に横山陸人選手(オリックス)は防御率1.57に対しFIPが3.67と、防御率の方がかなり良い。こちらは「良い巡り合わせにも助けられて、今のところ結果が出ている」可能性を示している。どちらのケースも、選手の投球そのものへの評価を一方的に下げる話ではなく、「今の結果と、今後も同じペースを維持できるかどうかは別の話かもしれない」という見方を助けてくれる数字だと捉えてほしい。

当サイトが独自に出している指標について

当サイトの/analysisページでは、ここまで紹介したOPS・WHIP・FIPに加えて、wOBA・K%・BB%・LABバリューといった指標も独自に算出し、公開している。いずれも公開されている試合結果・成績データをもとにした当サイト独自の分析・試算であり、NPB公式の発表数値ではない点はあらかじめお断りしておきたい。

簡単に触れておくと、wOBAは単打・二塁打・三塁打・本塁打・四球のそれぞれに「得点にどれだけつながりやすいか」という重みをつけて合算した指標で、OPSよりもう一段精度を上げた打撃指標だ。K%・BB%はそれぞれ全打席に占める三振・四球の割合で、打者の選球眼やアプローチの傾向を映す数字になる。そしてLABバリューは、単位が違うために本来比較できない打者と投手を、統計的な処理(標準化)を使って同じ物差しの上に乗せ、横並びで比較できるようにした当サイト独自の総合指標だ。これらの指標がどういう考え方・計算式で作られているかは、算出方法についてのページで詳しく説明しているので、興味を持った方はぜひ読んでみてほしい。

まとめ――数字は選手を「別の角度」から見せてくれる道具

OPSもWHIPも、そしてFIPやwOBA、LABバリューも、打率や防御率を「否定する」ための数字ではない。打率が示す「ヒットを打つ確率」も、防御率が示す「最終的に何点取られたか」という結果も、それぞれ大事な事実だ。セイバーメトリクスはそこに「長打力」「選球眼」「走者を出さない力」「運の巡り合わせ」といった、別の角度からの光を当てているに過ぎない。数字が増えるほど、1人の選手をより立体的に理解できるようになる――それがこうした指標を学ぶ一番の意味だと思う。次に中継でOPSやWHIPという数字を見かけたら、ぜひ「この選手のどんな一面を映しているんだろう」と考えながら見てほしい。