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野球のルール入門:内野手の守備位置ルールが2026年に改正 ― 「シフト制限」は日本のプロ野球に適用されるのか
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2026年8月13日 ・ 執筆: 佐野健一(サノケン)
Point
2026年度の野球規則改正(27項目)のひとつに、内野手の守備位置を定めた規則5.02(c)の改正がある。
目次
2026年度の野球規則改正(27項目)のひとつに、内野手の守備位置を定めた規則5.02(c)の改正がある。「投手が打者に対して投球のためにボールが手から離れたとき、4人の内野手のうち2人ずつは二塁ベースの両側に分かれて、両足を位置した側に置いていなければならない」という一文が明記され、これだけを見るとMLBが2023年に導入し「大谷シフト」封じとも呼ばれた守備シフト制限が、いよいよ日本にも入ってきたように映る。だが一次資料を確認する限り、話はそれほど単純ではない。この規定には日本独自の注記が付いており、本項後段(内野手の守備位置に関する部分)は「我が国では適用しない」と明記されている。しかもこの注記自体は2024年度の改正時点で既に存在しており、2026年度の改正はその適用除外に手を加えていない。つまり、条文の言い回しは変わったが、日本の実際のプレーが変わるわけではない、というのが現時点で確認できる事実関係だ。今回はこの規定の中身と、なぜ「変わったのに変わらない」という状態になっているのかを整理したい。
そもそも守備シフトとは何か
守備シフトとは、打者の打球方向のデータをもとに、通常の定位置から野手を大きく動かして守る戦術を指す。プルヒッター(引っ張り方向に打球が偏る打者)に対して二塁手や遊撃手を打者の引っ張る方向に寄せ、二塁ベースの片側に3人以上の内野手を集めるような配置が典型例だ。日本球界では王貞治氏に対して敷かれた「王シフト」が有名で、極端な守備位置の工夫自体は決して新しいものではない。近年はトラッキングデータの普及によって、打球方向の傾向がより精緻に可視化され、MLBを中心に極端なシフトが常態化していた時期があった。
MLBが2023年に導入した「シフト制限」の中身
MLBは2023年シーズンから、極端な守備シフトを制限する規則を導入した。骨格は次の2点である。
- 二塁ベースを挟んで2人ずつ:投手の投球時点で、4人の内野手のうち2人が二塁ベースの左側、残り2人が右側にいなければならない
- 内野の土の部分に位置する:4人の内野手は、投球開始時点で内野(土のエリア)の範囲内に両足を置いていなければならず、外野の芝生まで下がることは認められない
この改正は、大谷翔平選手を含む一部の強打者に対して敷かれていた極端なシフトを念頭に置いたものとされ、日本のメディアでも「大谷シフト対策」として報じられた。
日本の野球規則にも同じ条文がある ― ただし「適用しない」の注記つき
日本の公認野球規則(プロ・アマ合同)は、米国のオフィシャル・ベースボール・ルールズ(OBR)の改正を受けて毎年見直しが行われており、MLBのシフト制限に相当する条文は、2024年度の改正時点ですでに規則5.02(c)へ追加されていた。具体的には、内野手の守備位置について「投手が投手板に触れて投球動作を開始するとき、4人の内野手は内野の境目より前に両足を置く」ことと、「投手が打者に投球するとき、4人の内野手のうち2人ずつは二塁ベースの両側に分かれる」ことを定める条文が新設され、違反時のペナルティも定められた(note「2024年度 野球規則改正②」)。
ここまではMLBの規定とほぼ同じ内容だ。しかし、この条文の末尾には次の一文が付け加えられている。
【注2】我が国では、本項後段の内野手の守備位置については、適用しない。
この注記は複数の一次・準一次資料で確認できる。野球規則の改正前後を全文で比較して公開している資料(2026年度野球規則改正 全文対照資料)では、規則5.02(c)の「現行」欄・「改正後」欄の両方に、この【注2】が変更なしでそのまま記載されている。つまり、2026年度の改正はこの適用除外の注記には手を付けていない。野球規則の解説を専門的に行っているブログでも同様の指摘があり、「日本では『シフト禁止』ルールは引き続き適用されません」と結論づけている(num「2026年度野球規則改正の27項目を解説」)。
2026年度改正で実際に変わったのは「文言」だけ
では2026年度の改正では規則5.02(c)の何が変わったのか。NPBが2025年11月20日に発表した「2026年度 野球規則改正」(NPB公式サイト「2026年度 野球規則改正」、日本野球規則委員会PDF)によれば、2025年のOBR改正に合わせて、以下の点が改められた。
項目 | 2025年度以前 | 2026年度以降 |
|---|---|---|
内野手が2人ずつに分かれる条件の起点 | 投手が「打者に対して投球するとき」 | 投手が「打者に対して投球のためにボールが手から離れたとき」 |
ペナルティの内容 | 投球にボールを宣告しボールデッド | 最初にボールに触れた内野手が違反していた場合は、打者・走者に安全進塁権を付与。違反した内野手が最初にボールに触れていなければボール宣告 |
【注2】(日本では本項後段を適用しない) | あり | 変更なし(そのまま存置) |
つまり、「投球動作を始めた時点」で内野手の配置を判定していたのを、「実際にボールが手から離れた瞬間」を基準にするという、判定タイミングの厳密化が主な変更点であり、違反時の処理もより細かく定義された。これはMLBが2025年のOBR改正で行った修正に日本の規則を合わせたものとみられる。ただし、この条文全体が【注2】によって日本では適用対象外とされている以上、判定タイミングが精緻化されたところで、日本の公式戦の運用が変わるわけではない。
誤解しやすいポイント:外野手とのポジション交換は別の話
MLBでシフト制限が話題になった際、「外野手を内野に配置する変則シフト」がしばしば取り上げられた。これは、二塁ベース側方に内野手をもう1人増やす代わりに外野手を3人から2人に減らし、実質的に5人目の内野手を置くような配置を指す。今回の規則5.02(c)は、あくまで4人の内野手を二塁ベースの両側に2人ずつ分けるという内野手同士の位置関係を定めたものであり、外野手が内野の位置に入る、あるいは内野手が外野の位置に回るといった外野・内野間のポジション交換そのものを禁じる条文ではない。MLBの規定でも、内野手が「土のエリアの中」にいることは求められているが、外野手が土のエリアに入って守ること自体を禁じているわけではなく、この点は日本の条文(適用除外になっているとはいえ、条文上の内容として)でも同様の構造になっている。この規則をめぐる混同が起きやすいポイントなので、あらためて整理しておきたい。
ポイント
今回の規則が定めているのは「内野手4人を二塁ベースの両側に2人ずつ配置する」ことだけであり、外野手を内野に置く変則シフトそのものを禁じる条文ではない。そして日本では、その内野手配置の規定自体が【注2】により適用除外とされている。
なぜ日本は「適用しない」を選んだのか
NPBや日本野球規則委員会が、この適用除外を選んだ理由について公式に説明した文書は、本稿執筆時点で確認できていない。あくまで推測の域を出ないが、日本のプロ野球では、MLBほど極端な守備シフト(二塁ベースの片側に3人以上を集めるような配置)が常態化していたわけではなく、実務上シフト制限を設ける必要性が薄いと判断された可能性はある。また、内野の深い位置から一塁へ強肩で送球するプレーは日本の内野守備でひとつの評価軸になっており、守備位置を条文で厳格に縛ることへの現場の抵抗感も背景にあるかもしれない。ただし、これらはいずれも一次資料で裏付けられた「公式な理由」ではなく、あくまで周辺状況からの推測であることは明記しておきたい。
まとめ ― 見出しと実態のギャップに注意したい
2026年度の野球規則改正のうち、内野手の守備位置に関する規則5.02(c)は、条文の言い回しがMLBの最新版に合わせて更新された。だが日本の野球規則には2024年度から【注2】という適用除外の注記が付されており、2026年度の改正もこの注記には手を加えていない。したがって、「2026年からNPBにシフト制限が導入された」という理解は、条文の存在という意味では正しいが、「実際のプレーが制限される」という意味では現時点の一次資料からは支持されない。この規則をめぐっては、シフト制限が実際に機能しているかのように紹介する記事も見られるが、条文末尾の注記を踏まえると、少なくとも本稿執筆時点でその前提は再確認が必要だと考えられる。
よくある質問
Q. 2026年シーズン、NPBの試合で「二塁ベースの片側に3人」のような極端な守備シフトを見ても反則にはならないのか。
一次資料で確認できる範囲では、その通りだ。規則5.02(c)の内野手守備位置に関する条文自体が【注2】により日本では適用除外とされているため、条文上は反則を構成しない。
Q. アマチュア野球でも同じ扱いか。
公認野球規則はプロ・アマ合同で発表されており、【注2】も「我が国では」という表現になっているため、条文上はアマチュア野球にも同じ適用除外が及ぶと読める。ただし、大会や連盟によって独自の申し合わせがある可能性までは確認できていない。
Q. 外野手を内野に置くような変則シフトは日本でも自由にできるのか。
今回の規則5.02(c)はそもそも外野・内野間のポジション交換を禁じる条文ではないため、この規定の適用可否にかかわらず、外野手を内野寄りに置く配置自体は制約されない。
この記事についてのお断り
本記事は、NPB公式サイト「2026年度 野球規則改正」および日本野球規則委員会発表のPDF資料を一次情報として参照し、規則5.02(c)の【注2】(本項後段の内野手の守備位置について我が国では適用しないとする注記)の存在・不変更については、全文対照資料(tsunokawa.jp)および野球規則を専門的に解説するブログ(num-11235.hateblo.jp)、2024年度改正時点の同条文を紹介するnote記事(note.com/松田貴士氏)の記述を突き合わせて確認した。これら複数の資料で【注2】の文言が一致していることから、本稿では「2026年度改正時点でも本規定は日本では適用除外である」という前提で記述しているが、NPBまたは日本野球規則委員会が発行する完全版の公認野球規則そのものを直接確認できたわけではない点、また日本が適用除外を選んだ理由についての記述はいずれも推測に基づくものである点は、あらかじめご了承いただきたい。一部のニュースサイトやコラムでは、この規定があたかも日本のプロ野球で実際に機能しているかのように紹介されている場合があるが、本稿で確認した一次資料の内容とは前提が異なる可能性がある。

この記事を書いた人
佐野健一(サノケン) ・ プロ野球LAB 編集長・データアナリスト
