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少年野球の熱中症対策 ― 給水・クーリング・服装・休憩の科学的な基本

2026年7月23日 ・ 1回閲覧

夏の炎天下でのグラウンドは、大人が思う以上に過酷な環境になる。地面からの照り返しがある土のグラウンドでは、気温計が示す数字よりも体感の暑さがさらに厳しくなることも珍しくない。今回はプロ野球LABのいつものNPB成績分析からは少し離れ、少年野球の指導者・保護者の方に向けて、熱中症対策の基本を公開されている研究知見・公的機関のガイドラインをもとに整理する。

最初にお断りしておきたいのは、本記事は医学的な診断や治療方針を示すものではないという点だ。「これをすれば熱中症にならない」という保証をするものではなく、あくまで一般的に推奨されている予防策の紹介にとどまる。実際に子どもの様子がおかしい、意識がもうろうとしている、嘔吐している、体温が異常に高いといった場合は、自己判断で様子を見るのではなく、直ちに医療機関への搬送・救急要請を検討してほしい。

まず知っておきたい「暑さ指数(WBGT)」という物差し

熱中症対策を考えるうえでの土台になるのが、気温だけでなく湿度や日射・輻射熱も加味した「暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)」という指標だ。気温が同じでも、湿度が高ければ汗が蒸発しにくくなり体温を下げる効率が落ちる。WBGTはこの「体感の危険度」を数値化したものと考えるとイメージしやすい。

公益財団法人日本スポーツ協会が公開している「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019年)では、WBGTの値に応じた運動指針として、おおむね以下のような段階が示されている(出典:日本スポーツ協会「熱中症予防のための運動指針」)。

  • WBGT 21~25℃未満:注意 ― 積極的に水分を補給する
  • WBGT 25~28℃未満:警戒 ― 積極的に休憩を取り、適宜水分・塩分を補給する
  • WBGT 28~31℃未満:厳重警戒 ― 激しい運動は避け、10~20分おきに休憩を取る
  • WBGT 31℃以上:運動は原則中止 ― 特に子どもの場合は中止が望ましいとされる

環境省の熱中症予防情報サイトでは、地域ごとのWBGT実況・予測値が公開されている。感覚だけに頼らず、練習・試合前にこうした数値を確認する習慣を持つこと自体が、対策の第一歩になる。なお全日本軟式野球連盟の危機管理マニュアルでも、球場に暑さ指数の計測器を配備し、適時確認することが推奨されている(出典:全日本軟式野球連盟「危機管理マニュアル」)。

給水は「喉が渇く前」に、こまめに ― なぜタイミングが重要なのか

「喉が渇いたら飲む」という感覚に頼るのは危険とされている。喉の渇きを感じる仕組み(口渇中枢)は、体内の水分不足に対してやや遅れて反応するため、渇きを自覚した時点ではすでに軽度の脱水が進んでいる可能性がある、というのが一般的な理解だ。だからこそ「喉が渇く前に、こまめに飲む」ことが基本とされる。

補給の目安としては、15~20分おきに100~250ml程度、1時間あたりの合計で500~1,000ml程度を一つの目安として紹介されることが多い(出典:大塚製薬「効率的な水分補給」等)。日本スポーツ協会は具体的な量の目安に加え、運動前後の体重減少が体重の2%を超えないように水分補給を行うという考え方を示している(出典:日本スポーツ協会「熱中症予防のための運動指針」)。発汗量には体格差・気候差・個人差が大きいため、これらはあくまで目安であり、実際にはチームで「イニング間・給水タイム」を明確に決めて、全員が飲み忘れないようにする運用のほうが現実的だろう。

大量に汗をかいた場合は、水だけでなく塩分(ナトリウム)の補給も必要になる。汗と一緒にナトリウムも失われるため、水だけを大量に飲むと体内の塩分濃度がかえって薄まり、パフォーマンスの低下につながる可能性があるとされている。日本スポーツ協会は、100mlあたり0.1~0.2g程度の食塩と、糖質を含んだ飲料(市販のスポーツドリンクの多くが該当する)を推奨している(出典:日本スポーツ協会)。糖分が含まれることで腸管でのナトリウム・水分の吸収が促進されるという仕組みも、あわせて知っておくとよいだろう。

クーリング ― 「どこを」冷やすと効率的なのか

体を冷やす際、闇雲に濡れタオルを当てるよりも、冷やす「場所」を意識すると効率が上がるとされている。よく挙げられるのが、皮膚のすぐ近くを太い静脈が通っている3つの部位、いわゆる「三大冷却部位」だ(出典:日本ソフトボール協会医事委員会コラム等)。

  • 首の付け根の左右(前頸部)
  • 両脇の下(腋窩部)
  • 脚の付け根の前面(鼠径部)

これらの部位を氷嚢や保冷剤で冷やすと、皮膚のすぐ下を流れる静脈血が冷やされ、その冷えた血液が体の中心(深部)に戻っていくことで、効率的に深部体温を下げられる、というのがそのメカニズムだ。実際に日本高等学校野球連盟も、クーリングタイムでネッククーラーや氷嚢を使って首や脇を冷やす取り組みを紹介している(出典:日本高等学校野球連盟「深部体温を下げて熱中症を防ごう!!」)。

なお、熱中症が疑われる状態になってしまった場合の冷却方法としては、濡らして送風する方法やアイスパックよりも、氷水に浸ける方法(氷水浴)のほうが体温を下げる速度が速いという報告もある(出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル」等)。ただし氷水浴は実施できる環境が限られるため、少年野球の現場では、まず日陰への避難と衣服を緩めること、上記の三大冷却部位を冷やすこと、水分・塩分の補給を並行して行うことが現実的な基本になるだろう。繰り返しになるが、意識がはっきりしない、自力で水分が摂れないといった状態は、応急処置よりも救急要請を優先すべき段階である。

服装 ― 色・素材・帽子の選び方

服装の工夫も、体に熱をため込まないための重要な要素とされる。黒や濃紺など色の濃いウェアは太陽光を吸収しやすく、白やパステル系など明るい色のほうが光を反射しやすいと一般に説明されている。とはいえチームのユニフォームの色を変えるのは現実的ではないため、練習時のTシャツや帽子、ソックスなど選べる部分から明るめの色・通気性の良い素材を意識するのも一つの工夫だろう。

帽子については、メッシュ素材など通気性の良いものが推奨される一方、通気性の悪い帽子は内部に熱がこもり、かえって逆効果になりうるとされている(出典:各種帽子メーカー・繊維関連の解説記事)。ヘルメットを着用する打者・走者の場面では特に、休憩時にヘルメットを外して頭部の熱をこもらせないようにする配慮も有効と考えられる。

休憩の取り方 ― ルールより「体」を優先する

先述のWBGTに応じた運動指針では、警戒レベル(WBGT 25~28℃)で30分おき、厳重警戒レベル(同28~31℃)で10~20分おきの休憩が目安として示されている。少年野球の練習・試合では、あらかじめ「何分おきに給水・休憩を取るか」をチームの約束事として決めておくと、現場の判断に迷いが生じにくい。

日本スポーツ協会がスポーツ庁の審議会に提出した資料では、競技のルール(イニングの区切りなど)にとらわれず、参加者の休憩時間(水分補給や身体冷却のための時間)を設定するという対応方針が示されている(出典:日本スポーツ協会「スポーツ活動中の暑熱対策に関するJSPO対応方針」(スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会 提出資料))。「試合を止めてはいけない」という感覚を指導者・審判が手放すことも、対策の一部と言えるだろう。

また、練習・試合の時間帯そのものを見直すこと(気温が上がりきる前の早朝に設定する、日中を避けるなど)や、選手一人ひとりの体調(顔色、汗のかき方、朝の体調不良の申告など)を毎回チェックする仕組みを持つことも、公的機関が繰り返し呼びかけているポイントだ。暑さへの慣れ(暑熱順化)には個人差があり、特に体力の低い子ども、肥満傾向のある子ども、暑さに慣れていない時期(梅雨明け直後など)は特に注意が必要とされている。

まとめ

今回紹介した内容を、指導者・保護者向けのチェックリストとして整理すると次のようになる。(1)練習・試合前にWBGT(暑さ指数)を確認する、(2)喉が渇く前に、15~20分おきに塩分・糖分を含む飲料をこまめに補給する、(3)首・脇・脚の付け根を意識して体を冷やす機会を作る、(4)通気性のよい服装・帽子を選ぶ、(5)ルールにとらわれず、体調を最優先して休憩を取る。いずれも特別な設備がなくても、意識と運用次第で取り入れられる対策ばかりだ。

繰り返しになるが、これらはあくまで一般的に推奨されている予防策であり、「これさえ守れば熱中症にならない」というものではない。個人差・環境差が大きい領域であることを踏まえ、少しでも様子がおかしいと感じたら、練習や試合の続行より子どもの安全を優先してほしい。なお本記事は、プロ野球LABがこれまで公開してきたNPB選手の成績データ分析(ピタゴラス勝率やLABバリューなど当サイト独自の試算指標)とは独立した、一般的な熱中症予防知識をまとめた解説記事である。当サイトはNPB選手の投球・打球トラッキングデータ(回転数、打球速度等)や医療データを保有しておらず、本記事の内容はすべて日本スポーツ協会、環境省、日本高等学校野球連盟、全日本軟式野球連盟など公的機関・団体が公開している情報、および一般に公開されている医療・スポーツ科学関連の解説記事をもとに構成したものであり、当サイト独自の分析・調査結果ではない。また本記事は医学的な診断・治療方針を示すものではなく、熱中症の発症を予測・保証するものでもない。体調に異変を感じた場合は、自己判断に頼らず速やかに医療機関・救急に相談してほしい。