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Column

村上頌樹、防御率2.03の陰にあるFIP2.78 ― 四球は出さないのに本塁打は増えている

2026年7月21日

結論から言う。阪神・村上頌樹は2026年シーズンここまで17登板・115回1/3を投げ、7勝5敗、防御率2.03、当サイト独自試算のWHIP0.99という、いずれもリーグ屈指の数字を残している(2026年7月19日データ更新時点)。ところが同じく当サイト独自試算のFIPは2.78で、防御率やWHIPほどの図抜けた水準にはなっていない。四球はキャリアでも上位クラスに少ないのに、なぜFIPだけがやや控えめな数字になるのか。答えは「本塁打」にある。

与四球22個、WHIP0.99 ― 走者を出さない投球の中身

WHIPは投手が1イニングあたりに出した走者数(被安打+与四球を投球回で割った数字で、低いほど良い)を示す指標だ。村上の今季の与四球は22個。115回1/3を投げてこの数字は、9イニング換算で1.72個にとどまる。当サイトの規定投球回到達投手を対象にしたWHIPランキングでは、上位5人が髙橋遥人(阪神)0.78、大野雄大(中日)0.86、隅田知一郎(西武)0.92、北山亘基(日本ハム)0.94、井上温大(巨人)0.98という顔ぶれで、村上の0.99はこのすぐ下に位置する(当サイト独自の分析・試算。以下、WHIP・FIPはすべて同様)。上位5人の一角には一歩届かないが、規定投球回に到達した投手の中でも間違いなくトップクラスの水準だ。

この制球力は今年に始まった話ではない。NPB公式記録によると、村上は新人王とMVPをセ・リーグ史上初めてダブル受賞した2023年、22登板・144回1/3を投げて与四球15、被安打92という数字を残し、同じ式で計算するとWHIPは0.74まで下がる。防御率もリーグトップの1.75だった。翌2024年は与四球が33個まで増え、防御率2.58・WHIP1.15と数字を落とす年になったが、2025年には与四球25個・WHIP0.89まで立て直し、14勝4敗という結果につなげている。2026年の与四球22個・WHIP0.99は、2023年の異次元の数字には届かないものの、制球を武器にする投手としての水準は維持できていると言っていい。

その制球力を支えているのが、球速だけに頼らない緩急の使い方だ。村上のストレートは最速154km/hを記録したことがあるが、平均球速は146km/h前後で、剛速球投手というタイプではない。代わりに中学時代に覚えたという80~100km/h台の超スローカーブを織り交ぜ、137km/h前後のツーシームとの間に約80km/hという極端な緩急差を作る。2025年の日本シリーズでは59km/hの超スローボールを投げた直後に137km/hのツーシームでゴロを打たせる場面もあった。150km/h超のストレートが珍しくない時代に、あえて緩急でタイミングを外しにいく投球術が、四球を出さずに凡打を積み重ねる土台になっている。

FIP2.78が示す「防御率ほどではない」評価

FIP(Fielding Independent Pitching)は、守備の巧拙に左右されにくい奪三振・与四球・被本塁打だけから投手の実力を推定しようとする指標だ。当サイトのFIPは公開されている一般的な線形加重係数を使った簡易試算で、NPBの得点環境に厳密に較正した値ではない点は先に断っておきたい。その前提のうえで、村上の今季FIP2.78は、規定投球回到達投手を対象にした当サイトのFIPランキング上位5人(髙橋遥人1.53、才木浩人1.93、隅田知一郎2.04、井上温大2.09、石田裕太郎2.19)には届いていない。同じ阪神の投手陣で見ても、髙橋遥人と才木浩人の2人がFIPでは村上より上に来ている。

防御率2.03、WHIP0.99という「結果」の数字が示す評価と、FIP2.78という「四球・奪三振・被本塁打だけから見た」評価の間にはっきりした差がある。この差を生んでいる要因を数字で追うと、被本塁打の多さに行き着く。

本塁打というノイズ ― 過去3年からほぼ倍増

村上の今季の被本塁打は11本。115回1/3で割ると、9イニング換算で0.86本になる。これを過去3年と比べると、数字の異質さがはっきりする。

  • 2023年:被本塁打9本/144回1/3 → 9イニング換算 0.56本
  • 2024年:被本塁打7本/153回2/3 → 9イニング換算 0.41本
  • 2025年:被本塁打9本/175回1/3 → 9イニング換算 0.46本
  • 2026年:被本塁打11本/115回1/3 → 9イニング換算 0.86本

過去3年は9イニング換算でおおむね0.4~0.6本のレンジに収まっていたのが、今季はほぼ倍のペースだ。一般的なFIPの計算式は被本塁打に最も重いウェイト(13倍程度)を掛けるため、この本塁打の増加分がそのままFIPを押し上げている、というのが数字から読み取れる筋書きになる。与四球は減っているのに評価指標としてのFIPが伸び悩んでいるのは、四球ではなく一発によるノイズが主因だと考えられる。

本塁打は増えても失点はさほど増えていない

興味深いのは、被本塁打がほぼ倍増しているにもかかわらず、防御率2.03は自己ベストの2023年(1.75)に次ぐ、キャリアでも上位の数字になっている点だ。被安打92本を115回1/3で割ると9イニング換算で7.18本と、走者を大きく背負う投球にはなっていない。四球が少ないぶん一本のホームランがそのまま失点に直結しやすい状況にはなっているが、それでも大量失点のイニングを重ねずに済んでいる、というのが数字全体から見えてくる姿だ。ソロホームランが中心なのか、あるいは要所での粘りが効いているのか、当サイトが保有するデータだけでは断定できないが、四球を絡めたビッグイニングを避けられているという傾向は数字の上でも支持できる。

LABバリュー全体10位が示す立ち位置

当サイト独自の総合指標「LABバリュー」(打者・投手をリーグ平均からの標準得点で横断比較する分析・試算値。NPB公式の発表数値ではない)で見ると、村上は投打全選手中で全体10位(値1.86)につけている。防御率やWHIPが示すほどの絶対的な首位ではないが、規定投球回を投げ続けながら安定して上位に顔を出しているという評価だ。本塁打による失点効率の伸びしろが、この順位にもある程度反映されていると考えられる。

まとめ ― 「四球を出さない投手」の強みは今年も健在

2026年の村上頌樹は、新人時代からの武器である制球力を今年も高いレベルで維持しながら、本塁打を浴びる頻度がやや上がっているシーズンだと言える。それでも防御率やWHIPが崩れていないのは、緩急とコントロールを軸にした投球スタイルが今も機能している証だろう。この本塁打増加のペースが一時的なブレなのか、それとも今季通してのトレンドになるのか。残りのシーズン、四球の少なさと本塁打のバランスがどう推移していくかは、引き続き追っていきたいポイントだ。