
平良海馬、防御率0.92から1.49へ ― 数字が語る『実力に見合う水準』への収斂
Column
平良海馬、防御率0.92から1.49へ ― 数字が語る『実力に見合う水準』への収斂
2026年7月17日 ・ 6回閲覧 ・ 執筆: 佐野健一(サノケン)
Point
埼玉西武ライオンズの平良海馬が、シーズン序盤から投げ続けてきた。7月16日時点で投球回88回1/3、自責点9、防御率0.92という数字を本コーナーで取り上げたが、そこから約3週間、8月11日時点であらためて確認すると投球回103、自責点17、防御率1.49となっている。
目次
埼玉西武ライオンズの平良海馬が、シーズン序盤から投げ続けてきた。7月16日時点で投球回88回1/3、自責点9、防御率0.92という数字を本コーナーで取り上げたが、そこから約3週間、8月11日時点であらためて確認すると投球回103、自責点17、防御率1.49となっている。数字だけを見れば「悪化した」ように映るかもしれない。だが結論から言えば、これは平良の投球が崩れた結果というより、当初の0点台という数字が持続不可能な水準だったものが、実力に見合った、それでもリーグ屈指の高い水準へと落ち着いてきた、というのが実態に近い。
投球回30以上・防御率トップ10(当サイト集計、8月11日時点)
まず、投球回30以上を対象にした1軍防御率のランキングを当サイトのデータベースから確認する。これは当サイト独自の集計であり、NPB公式のランキング発表とは別物である点をお断りしておく。
順位 | 選手 | 防御率 | 投球回 |
|---|---|---|---|
1 | 0.96 | 37.2 | |
2 | 1.16 | 38.2 | |
3 | 1.17 | 46.0 | |
4 | 1.38 | 72.0 | |
5 | 1.44 | 31.1 | |
6 | 平良海馬 | 1.49 | 103.0 |
7 | 1.53 | 35.1 | |
8 | 1.69 | 37.1 | |
9 | 1.72 | 36.2 | |
10 | 1.75 | 77.0 |
7月16日時点では実質的に単独首位だった平良は、8月11日時点で6位まで順位を下げた。ただし、ここで見落としてはいけないのが投球回の規模だ。1位のマチャド、2位の工藤、3位のレイノルズはいずれも投球回がまだ40前後にとどまっているのに対し、平良は103回を投げ、勝敗も8勝3敗と先発ローテーションを一貫して守り続けた結果としてこの防御率にたどり着いている。母数の大きさが違う数字を単純に横並びで比較するのが妥当かどうかは、この後の項であらためて触れる。
3週間の内訳を計算してみる
7月16日から8月11日までの区間だけを切り出すと、投球回は88回1/3から103回へ、つまり約14回2/3を追加で投げ、自責点は9から17へ、8点を追加で失ったことになる。この区間だけの防御率を単純計算すると、8×9÷14.667で約4.91。つまりこの約3週間だけを切り取れば、リーグ平均をやや上回る程度の「普通の投手」の数字になる。
これは平良の調子が急落したという意味ではない。むしろ、シーズン全体で見れば依然としてリーグ屈指の防御率1.49を維持しているという事実の方が重要だ。一部の登板で失点が重なる期間があるのはどの投手にも起こりうることであり、シーズン序盤の88回で自責点9という数字が「今後もこのペースが続く」ことを保証するものではなかった、というだけのことである。
なぜ「順位を下げた」のに評価が下がらないのか ― 母数と振れ幅の関係
統計を扱ううえで基本になる考え方に、母数(サンプルサイズ)が大きくなるほど、偶然による振れ幅は相対的に小さくなる、というものがある。当サイトが算出しているピタゴラス勝率を「平均的にはこのくらい勝っていて当然という物差し」とたとえて紹介したことがあるが、防御率のような比率成績にも同じ考え方が当てはまる。投球回30回程度の時点での防御率0点台は、その投手の実力の天井を示している可能性もあれば、たまたま少ない失点機会が重なっただけという可能性も排除できない。投球回が積み上がるほど、その数字は「まぐれ」ではなく「実力」に近い値へ収斂していく。
その意味で、投球回103に達してなお防御率1.49というリーグ上位の水準を保っている平良の数字は、投球回40前後で防御率0点台を維持している投手たちの数字と並べたとき、決して見劣りするものではない。むしろ、母数の大きさという観点では平良の数字の方が「信頼できる強さ」を示していると言ってよい。当サイトの見立てとしては、7月16日時点の記事で「防御率0点台を維持できるかは今後の登板次第」と述べていたが、まさにその通りに、持続不可能なほど低い数字から、リーグ最上位クラスとしては十分に高い水準へと落ち着いていく過程を今まさにたどっている、と捉えるのが実態に近いだろう。
なぜ当サイトは防御率の「獲得確率」を出さないのか(再掲)
当サイトの/titlesページでは、本塁打王・最多勝・最多奪三振といった「積み上げ型」の成績についてタイトル獲得確率を日次でシミュレーション算出している。一方で打率や防御率のような「比率成績」については、この確率シミュレーションの対象に含めていない。理由は、規定投球回・規定打席という判定ロジックを実装できていないためだ(詳しくは算出方法についてで説明している)。
規定投球回は「チームの消化試合数」を基準に算出される変動値で、シーズン中は毎日動く。この判定を甘くすると、登板数の少ないリリーフ投手がたまたま良い数字を残しているだけのケースを「防御率トップ」として誤表示しかねない。実際、今回のランキングでも津森やハーンのように投球回30回台の投手が上位に並んでいるが、平良のように103回を投げた投手と同列に「防御率何位」と扱ってよいかは、慎重な線引きが必要な問題だ。これは当サイトの手抜きではなく、この線引きを甘くしないための「未実装」である。
その代わりに出せる数字 ― LABバリュー
比率成績そのものの確率シミュレーションは出せないが、当サイトが独自算出している貢献度指数「LABバリュー」(/analysisページ参照)では、投球回30以上を対象に防御率をリーグ平均との差で標準化した数値を掲載している。これはあくまで当サイト独自の試算値であり、NPB公式の順位や表彰基準とは異なる点をあらためて明記しておく。防御率が0.92から1.49へ変化した今回のケースでも、投球回103という規模の大きさがある分、LABバリュー上の評価が単純な防御率の数字だけで急落するわけではない、という点は押さえておきたい。数値の絶対比較というより「リーグ平均からどれだけ離れているか」という物差しとして参照してもらえればと思う。
一般論として ― 防御率が落ち着いていく背景
ここからは当サイトが保有するデータの分析ではなく、一般的な野球分析の知見として述べる。シーズン序盤に極端に低い防御率を記録した投手が、シーズンが進むにつれて数字を「平均に近づけていく」現象は、統計学で言うところの平均への回帰(regression to the mean)として説明されることが多い。加えて実務的な理由として、対戦を重ねるほど相手チームのスカウティングが進み、配球やコースの傾向が読まれやすくなること、また終盤に向けて投球イニングが積み重なることによる負荷の蓄積が結果に影響しうること、なども一般的な要因として挙げられる。
ただし、これらはあくまで一般論であり、平良個人の投球にこれらの要因がどの程度当てはまっているかを断定する材料を当サイトは持っていない。回転数やリリースポイント、打球速度といったトラッキングデータを当サイトは保有していないため、平良個人の投球メカニズムに踏み込んだ分析はできない。もしそうしたデータがあれば、防御率という結果の数字だけでなく、球種構成や制球の変化といった「なぜ」の部分まで踏み込んだ分析が可能になるだろうが、現時点ではそこまでの検証はできないことをお断りしておく。
この記事についてのお断り
本記事で示した防御率・投球回・LABバリューなどの数値は、いずれも当サイトが独自に保有・算出しているデータベースに基づく試算であり、NPB公式の発表や公式記録とは異なる場合がある。当サイトは投球の回転数や打球速度といった詳細なトラッキングデータを保有していないため、選手個人の投球メカニズムや調子の良し悪しについて、断定的な分析や医学的な見立て(怪我のリスクを含む)は一切行っていない。本記事の内容は、あくまで公開されているシーズン成績をもとにした一般的なスポーツ統計の視点からの考察であり、平良海馬選手をはじめ紹介した選手たちの今後の活躍を称える立場で書かれている。

この記事を書いた人
佐野健一(サノケン) ・ プロ野球LAB 編集長・データアナリスト
