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夏の甲子園、史上初のDH制・ビデオ判定・女性審判 ― 2026年から何が変わったか
2026年8月19日 ・ 執筆: 佐野健一(サノケン)
Point
2026年8月5日に開幕した第108回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)は、大会の運営面で歴史的な転換点になっている。指名打者(DH)制、ビデオ判定(ビデオ検証)、そして女性審判員の起用という3つの新しい取り組みが、春夏を通じて初めて同時に導入されたからだ。
目次
2026年8月5日に開幕した第108回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)は、大会の運営面で歴史的な転換点になっている。指名打者(DH)制、ビデオ判定(ビデオ検証)、そして女性審判員の起用という3つの新しい取り組みが、春夏を通じて初めて同時に導入されたからだ。センバツ(選抜高等学校野球大会)から数えても、これほどまとまった制度変更が一度に入るのは異例だ。この記事では、それぞれの制度が「何のために」「どんな形で」導入されたのかを、実際に大会で起きた出来事も交えながら整理する。
指名打者(DH)制 ― 部員数減少と投手保護が導入の柱
DH制とは、投手に代わって打撃だけを行う選手を打順に加えられる制度のことだ。詳しい仕組みについては、NPB(日本野球機構)でのDH制を解説した当サイトの記事「野球のルール入門:DH制度とは何か」もあわせて読んでほしい。高校野球では2026年春のセンバツ(第98回選抜高等学校野球大会)から先行導入され、今回の第108回全国選手権が夏の甲子園としては初適用となる(日本経済新聞「高校野球にDH制、特別規則に明記 2026年選抜大会から導入」、日本高等学校野球連盟「指名打者(DH=Designated Hitter)について【公認野球規則5.11】」)。
導入の狙いとして日本高野連が挙げているのは、大きく分けて次の3点だ。
- 出場機会の創出:少子化に伴う部員数減少が進む中、打撃が得意でも投手としては起用しづらい控え選手に打席のチャンスを作れる
- 投手の負担軽減:投球だけに集中させることで、故障予防や熱中症対策にもつながる
- 他カテゴリとの整合:全日本大学野球連盟は1992年から大学野球選手権にDH制を採用しており、NPBも1975年のパ・リーグ導入以降DH制を運用してきた。高校野球はアマチュア野球の中で長らく「DHなし」を貫いてきた最後の主要カテゴリーだった
高校野球のDH制は全チーム一律の義務ではなく、試合ごとに使うかどうかをチームが選べる「任意選択制」になっている点がポイントだ。また、いわゆる「大谷ルール」(先発投手が自らDHを兼任できる規則)も適用されているが、高校野球では一度マウンドを降りた投手はその試合で再登板できないという制約があり、プロ野球以上に運用の難しさが指摘されている(高校野球ドットコム「DH制採用も『大谷ルール』適用は1例のみ」)。
実際の採用率も高い。毎日新聞(Yahoo!ニュース配信)によると、センバツでは出場32校中26校(8割超)が初戦でDH制を採用し、夏の甲子園でも49校中40校(同じく8割超)が採用している。打順の傾向はセンバツと夏で異なり、センバツでは6番起用が9校と突出していたのに対し、夏の甲子園では6番(7校)を筆頭に3〜5番・7番・8番(各5校)、1・2番(各4校)と分散した。大分商業のように、後の回から救援登板する予定のエース投手を「2番・DH」で先発起用し、3回からマウンドに上がらせるといった戦術的な使い方も見られている(毎日新聞「DHの打順、最適解は? 夏の甲子園はセンバツと異なる傾向」)。
ポイント
NPBではパ・リーグが1975年にDH制を導入してからセ・リーグが採用するまで50年以上かかった(セ・リーグの採用は2027年シーズンから)。一方、高校野球は全国一律で2026年に一気に導入された点が対照的だ。
ビデオ判定(ビデオ検証) ― 対象は限定的、実際に判定が覆った試合も
ビデオ判定の基本的な考え方については、当サイトのNPB版解説記事「野球のルール入門:ビデオ判定(リクエスト)は1試合何回まで?」で詳しく触れているが、高校野球版は仕組みが少し異なる。日本高野連は2026年4月の理事会で「大学及び高校野球におけるビデオ検証に関する特別規則」を承認し、今大会から正式に運用を始めた(日本高等学校野球連盟「大学及び高校野球におけるビデオ検証に関する特別規則」、日本高等学校野球連盟「ビデオ検証の対象プレイと導入への歩み」)。
対象になるのは本塁打やエンタイトルツーベース(規定により自動的に二塁打となる打球)の判定、塁上でのクロスプレー、外野でのキャッチ・ノーキャッチ、後方のフェア・ファウル、死球の有無などで、NPBのリクエスト制度とおおむね共通している。一方でストライク・ボール判定、ボーク、ハーフスイング、走塁妨害などは対象外となっている点もNPBと同様だ。回数のルールはNPBよりもシンプルで、9回まで両チーム1回ずつ要求でき、要求した結果判定が覆った場合はもう1回要求できる(つまり上限は2回)。延長に入った場合はそれまでの回数にかかわらず1回だけ追加で要求できる。
NPBでは2026年から審判が持ち回りで確認する方式をやめ、事務局内の「リプレーセンター」に映像確認を一元化しているが、高校野球ではまだそこまでの専用施設は整っておらず、球場に詰める審判団の中で判定を確認する体制で運用が始まっている。実際に大会序盤は要求そのものがなく(毎日新聞(Yahoo!ニュース)「初導入のビデオ検証、第2日を終えて実施ゼロ」)、大会第3日の8月7日に初めて2試合で要求が出た。有明対立命館宇治戦では二盗のアウト判定に対する要求、立正大淞南対長崎日大戦では二塁への牽制球でのセーフ判定に対する要求(アウトを主張)があったが、いずれも「確証を得られる映像がない」として当初の判定通りとなった(高校野球ドットコム「甲子園で1日に2度の『ビデオ検証』!いずれも確証得られず元の判定通りに」)。そして8月8日の東日大昌平対白樺学園戦では、九回表の牽制球でのアウト判定に対する要求が認められ、大会史上初めて判定が覆った。この判定変更の直後に決勝タイムリーが飛び出す場面もあり、ビデオ判定が試合の結果に直結し得ることを印象づけた(高校野球ドットコム「東日大昌平vs白樺学園でビデオ検証により初の『判定変更』!」)。
運用面では「速やかに要求する」という基準の解釈が難しく、要求のタイミングを巡って審判側が説明を行う場面もあったと報じられている(Full-Count「甲子園ビデオ判定、解釈難しい『速やかに』の基準」)。導入初年度らしく、制度そのものはできても、現場での運用ノウハウは大会を重ねながら積み上がっていく段階といえる。
女性審判員の起用 ― 春夏の甲子園史上初めて
今大会では、春夏を通じて甲子園史上初めて女性の審判委員が採用された。都道府県高野連からの派遣審判を除いて委嘱された46人の審判委員のうち5人が女性で、岩男香澄さん(神奈川)、佐藤加奈さん(埼玉)、松本京子さん(佐賀)、森田真紀さん(埼玉)、和田佳奈さん(栃木)の5人が務めている。8月5日の開幕試合では森田真紀さんが二塁塁審に入り、春夏の甲子園を通じて女性審判員がグラウンドに立つ初めてのケースとなった(デイリースポーツ「夏の甲子園 開幕試合で女性審判員の森田真紀さんがジャッジ」)。
今大会での起用は、高校野球が直面する審判の人材不足を踏まえ、性別にかかわらず技術の高い人材を起用していく流れの一環と位置づけられている。埼玉県で中学校教諭を務める森田さんは、開幕試合を終えた後の取材に「みんなに支えられた」「絶対に失敗できないという思いだけだった」と振り返っている(日本経済新聞「女性審判、甲子園デビュー 森田真紀さん『みんなに支えられた』」)。
なお、判定への異論や際どいジャッジそのものは、経験豊富なベテラン審判であっても起こり得るものであり、性別を理由に評価されるべきものではない。むしろ今大会でビデオ判定が同時に導入されたことは、審判一人ひとりの目視判断だけに頼らず、映像という客観的な材料で判定を補強できる体制を整えるという意味で、審判委員全体(女性・男性を問わず)への支援策としても位置づけられるだろう。
なぜ2026年にまとめて変わったのか
3つの新制度がこの年にまとまって動いた背景には、複数の課題が同時期に重なっていた事情がある。
- 猛暑対策:熱中症リスクへの対応は喫緊の課題で、今大会では試合を午前・午後に分ける「2部制」の対象日も開幕からの日数を広げて拡大されている。投手の負担軽減を狙うDH制も、この文脈の延長線上にある取り組みだ
- 部員数減少:少子化に伴い、多くの加盟校で部員数が減少傾向にある。DH制による出場機会の創出や、審判の人材不足に対応する女性審判員の起用は、いずれも「担い手の裾野を広げる」という同じ方向性の課題認識から生まれている
- 判定の公平性・審判への負担軽減:SNSでの中傷など、際どい判定を巡る審判への風当たりが問題視されてきた経緯があり、ビデオ判定の導入はこうした課題への一つの回答でもある
- 他カテゴリとの整合:DH制もビデオ判定も、大学野球やNPBではすでに一定の実績がある制度であり、高校野球が「最後発」で追いつく形になった
なお当サイトでは以前、猛暑対策を主眼にした「7イニング制」導入論争についても記事「高校野球『7回制』論争と、当サイトが考える『理想の大会像』」で取り上げている。今回のDH制・ビデオ判定・女性審判員の導入は、7回制のようにイニング数そのものに手を付けるものではないが、根底にある「猛暑・部員数・審判の負担」という課題認識は共通しており、今後も高校野球の制度は段階的にアップデートされていく可能性が高い。
指名打者制、ビデオ判定、女性審判員という3つの変化は、それぞれ単独で見ても大きなニュースだが、同じ年にまとめて動いたという事実そのものが、高校野球という競技が置かれている環境の変化の大きさを物語っている。大会はまだ進行中であり、運用面での課題や改善点も今後さらに明らかになっていくはずだ。当サイトも大会の推移とあわせて、これらの新制度がどう根付いていくかを引き続き見ていきたい。

この記事を書いた人
佐野健一(サノケン) ・ プロ野球LAB 編集長・データアナリスト
